個人の特徴に応じて予測するのが先制医療

先制医療は、これまでの予防医学とはどう違うのですか。

 20世紀後半になって世界各国でNCDが増加し、その予防に関心が持たれるようになりました。虚血性心疾患の増加に危機感を持った米国では、1948年以降、フラミンガムという町の住民を対象とした追跡研究(コホート研究)が行われました。その結果、高コレステロール血症、高血圧、喫煙、肥満などのリスク因子が明らかにされ、それら因子への対策が予防法として進められるようになりました。

(写真:石田 高志、以下同)

 日本では、1950年代から当時の厚生省が成人病という概念の下、その早期診断・治療を目指して中高年を対象にした啓発活動と検診が行われました。こうしたNCDへの予防は集団を対象とした標準的なものであり、リスクを全て持っていても心筋梗塞を起こさない人がいるし、リスクが全くないか1つだけ持っていても起こす人もいる。統計学的に見れば、たくさんのリスクを持っている人に発症が多いのは間違いないのですが、それが必ずしも個人に当てはまらないところが従来の予防医学の最大の問題です。

 NCDは、一般に遺伝素因と環境因子が相互作用して発症すると考えられています。21世紀に入ってヒトゲノムが解読され、疾患感受性遺伝子の研究が進むとともに、血液の生化学あるいは免疫学的検査や画像診断が著しく進歩しました。これにより、個人の特徴に応じた予防法の開発への期待が高まりました。

 さらに、中高年以降の様々なNCDの発症には、胎生期や生後早期の低栄養が影響するとの疫学研究が注目を集めるようになりました。第二次世界大戦末期のナチス・ドイツ占領下のオランダで起きた飢餓の直後に生まれた子どもの追跡調査では、統合失調症や肥満、糖尿病、心筋梗塞などが多く、最近では認知機能の低下も認められています。

 先制医療は、こうした医学の進歩を背景としたものです。個人の遺伝素因やバイオマーカー、早期からの身体所見や病歴などから、水面下にある病気を予測し、その時点で介入することによって発症を遅らせるか防止することを目指しています。