開発進むリキッドバイオプシーにも期待

発症前に先制医療を適用し得るNCDとして、具体的にはどんなものが考えられるでしょうか。

 既に分かっているのは、認知症の中でおよそ60%以上を占めるアルツハイマー病です。若年発症例もありますが、多くは65歳以降に起こる晩発型であり、発症の20年ほど前から脳内にアミロイドβの蓄積があることが解剖学的所見から知られていました。

 近年、アミロイドβをPETスキャン(陽電子放射断層撮影)で検出できるようになり、発症前にプレ・アルツハイマー病を診断して対策を立てることが可能になってきています。ただ、確実に有効な薬剤はまだ開発されていないので、プレ・アルツハイマー病を進行させる環境因子、例えば糖尿病や脂質異常症、高血圧、運動の少ない生活様式などへの対策を考え、発症を防止あるいは遅延させる方法を考えるべきでしょう。

 欧米では最近、アルツハイマー病が減り始めています。その原因は解明されていませんが、戦後の大学進学者の増加が関係しているといわれています。知的好奇心を持ち続けることも重要です。

「がん」も先制医療で克服できるでしょうか。

 がんは、細胞の分裂・増殖に関与する遺伝子に突然変異が蓄積することにより起こると考えられています。ただし、局所の微小環境や免疫系の関与も指摘されており、発症予測が可能かどうかまだよく分かっていません。

 私が座長を務めた、「がんスクリーニング」をテーマにした円卓会議では、リキッドバイオプシー(血液などの検体からがんを検出する技術)が話題になりました。昨今では、細胞から血液中に放出されるエクソソームの研究が活発になっており、発症前の診断に役立つ可能性があります。

 感染を基盤にして起こるがんに対しては、例えば胃がんではピロリ菌の除菌、肝がんでは肝炎ウイルスの治療、子宮頸がんではHPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチンが発症の予防につながるため、ある意味で先制医療といえます。また、がんの発症に関わる要因として環境因子も重要です。喫煙や食事、飲酒、紫外線・放射線曝露への対策も一般的な予防として進められる必要があるでしょう。