1974年に日本初の「がん保険」の販売を開始したアフラック生命保険。同社は今、保険の枠を超え、より広く包括的に、がんに関わる社会的課題の解決に取り組み始めている。その柱となるのが、様々なステークホルダーが連携・協業するプラットフォーム「キャンサーエコシステム」の構築である。これにより、治療以外の幅広い領域に広がる患者の多様なニーズに対応することを目指す考えだ。同社 代表取締役社長の古出氏に話を聞いた。

(聞き手は高橋 博樹=日経BP 総合研究所)

「がん保険」のトップランナーとして、従来の保険の枠を超えた価値の提供を積極的に推進されています。

 私たちは「がん保険」で始まった会社です。日本初のがん保険を発売した1974年から45年以上、「がんに苦しむ人々を経済的苦難から救いたい」という創業の想いをコアバリュー(基本的価値観)として連綿と受け継いできました。

 同時に、がん保険の提供を通じて日本社会で成長してきた会社として、さらに保険の枠を超え、もっと広く包括的に、がんに関わる社会的課題の解決に貢献していきたいと考えています。この考えは、創業50周年となる2024年に目指す姿として策定した「Aflac VISION2024」にも明確に打ち出しています。

 がんに関わる社会的課題には様々なものがあります。そのうち治療そのものは医療従事者が携わる領域ですが、健康増進や予防から始まり、治療後のQOLの維持まで、患者の方には「ペイシェントジャーニー」と呼ばれる様々な領域が存在します。このような治療以外の領域において、従来の保険の枠を超えて、私たちに何かできることはないか追求しています。

アフラック生命保険の古出氏(写真:川島 彩水、以下同)

その取り組みの一つが、「キャンサーエコシステム(Cancer Ecosystem)」の構築というわけですね。

 そうです。私たちは、がんやがん患者を取り巻く様々な問題を包括的かつ総合的に解決するため、がん患者とその家族を中心に様々なステークホルダーが連携・協業するプラットフォームの構築を目指しています。このプラットフォームを「キャンサーエコシステム」と名付けました。そして、キャンサーエコシステムの一環として、ここ数年でがんに関するヘルスケア事業で様々なステークホルダーとの連携・協業を一気に加速しています(関連記事:協働による「キャンサーエコシステム」で、がんにトータルで向き合う)。

 もちろん、がん保険もキャンサーエコシステムの一環として提供する価値の一つです。45年以上、がん保険を提供してきたアフラックだからこそ、コアビジネスでの経験を生かしてがんに関するヘルスケア事業で新たな価値を創造できるのではないかと考えています。また、多くの方々に「がん保険はアフラック」という認知をいただいており、がんに関わる社会的課題の解決をアフラックと一緒にやりたいと言っていただける大学・研究機関や企業も多くなっています。ですから、このキャンサーエコシステムは、「アフラックがやらなくて、どこがやるんだ」という強い思いを持っています。

すべて私たちでできるわけではない

キャンサーエコシステムは、保険加入者(患者)側からのニーズという点ではどう位置付けていますか。

 アンケート調査を実施したところ、がんに関して治療以外の分野でもソリューションの提供に対するニーズが高いと確認できました。私たちは、そのようなニーズに応えていくため、治療以外の領域で様々なサービスを展開していきたいと考えていますが、すべて私たちでできるわけではありません。がんに関わる社会的課題の解決に関心の高い医療機関、大学・研究機関、企業などとの連携・協業を進めているところです。

 患者の方には、予防、早期発見、治療と仕事の両立、治療後のQOL維持など治療以外の領域において多様なニーズがあります。医療機関だけでそのような多様なニーズに応えていくのは難しいと聞いており、医療機関以外も含めた様々なステークホルダーが連携・協業して取り組んでいくことが必要です。私たちは、各ステークホルダーがそれぞれの強みにフォーカスしつつ、連携・協業して、がんに関わる社会的課題を包括的に解決するプラットフォームであるキャンサーエコシステムを構築したいと思っています。

 例えば、東京や大阪の病院など自宅から離れたところで長期間にわたって小児がんなどの難病の治療を受ける子どものご家族には滞在費が大きな負担となっています。そこで、私たちは、小児がんなどの難病の治療を受ける子どものご家族が1泊1000円で宿泊できる施設「アフラックペアレンツハウス」を設立しました。子どもの治療中は期間の制限なく利用できます。また、駐在するカウンセラーがご家族の不安や悩みの相談に応じていて、経済的だけでなく精神的なサポートも提供しています。小児がんの子どもとご家族の支援で長年の実績がある公益財団法人「がんの子どもを守る会」が運営を行っていて、私たちは寄付を通じて運営を支援しています。

 その他に、私たちはがんの経験者同士がつながる場を提供するため、「tomosnote(トモスノート)」というがん経験者コミュニティサイトを運営しています。これは、がん患者の方が医療従事者やご家族になかなか悩みを相談できないことがある、同じがんにかかった経験がある人と悩みを共有したい、というニーズがあることを知り、2年前に立ち上げたものです。「ひとりじゃない」と感じられる場所を提供することで、がん患者の方の孤独感を解消したいと考えています。SNSという方法で全国の多くのがん患者の方に参加いただくことで、同じような悩みを持っているがん患者の方を見つけ、つながりやすくしています。全国各地のがん患者支援団体や医療機関と連携して、tomosnoteの普及に努めています。

がんスクリーニング技術は精度の向上に期待

がんの超早期発見に向けたスクリーニング技術の開発が進んでいます。この領域もキャンサーエコシステムの一つとして協働などを展開されていますが、どのように見ていますか。

 スクリーニング技術が進展し、がんの早期発見と、それによる早期治療が可能となるのは良いことがいくつかあります。手遅れになる前に発見できる、あるいは負担の少ない治療で済むなど、患者の方にとって良い場合があります。人生100年時代にいかに健康で長生きするかという社会的課題への取り組みとして意義があるのではないでしょうか。

 ただし、こうした新しい技術はまだ精度が低いという課題があると聞いています。精度が低いと利用者を不必要に不安にしますし、その後さらに検査を重ねることになり、かえって身体的、精神的、経済的負担を増やすことになりかねません。今、スタートアップを含めた多くの企業や大学・研究機関が研究開発を進めているので、精度の向上に期待しています。

 規制が厳し過ぎて新しい技術が社会に出てこなくなるのは困りますが、精度が低いまま社会に出てくるのも新しい技術全体に対する信頼を低下させかねないという点で問題です。個人が安心して使えるように、そして新しい技術を普及させるためにも、精度に対する技術的な認証の仕組みなどがあってもいいと思います。

がんを含めた様々な疾病に対する「未病」の領域への注目が、昨今では高まってきています。

 キャンサーエコシステムにも「未病」の領域がありますが、私たちはキャンサーエコシステムで培った知識・経験を生かして今後広く疾病全般を対象にしたヘルスケア事業でも様々なサービスを提供していきたいと考えています。その場合、この未病の領域は開拓の余地が大きいと思っています。未病の領域では、日常生活における心身の状態のデータをモニタリングするなど、データの収集・分析が重要になります。

 さらに、AI、IoT、ビッグデータなどデジタル技術の進歩により、未病の領域に限らずペイシェントジャーニーのどの領域においてもデータサイエンスが重要になってきます。この点、私たちは、これまでの長年のがん保険や医療保険などの提供を通じて様々なデータを保有しています。こうしたデータをビッグデータとして活用することで、キャンサーエコシステムや広く疾病全般を対象にしたヘルスケア事業において新たな価値を創造していけないだろうか、データサイエンスの積極的な利用も検討しています。

競争領域と非競争領域を分けて考える

保険の枠を超えた取り組みを進めていくことで、今後は事業の競争環境も変わっていきそうです。

 保険の枠を超えて広くヘルスケア事業でも新たな価値の創造を目指していくとなれば、保険ビジネスをめぐる同業他社との競争だけでなく、ヘルスケア事業全般にわたって競争を意識することになります。人生100年時代と呼ばれる高齢社会化や健康志向の高まりでヘルスケア事業は将来にわたってビジネスチャンスがあると見られており、多くの企業が高い関心を持っています。その中で、ヘルスケア事業のどの分野にフォーカスするのかはまさに企業の経営戦略です。そして、その経営戦略の根底にあるのが会社のコアバリューだと思います。

 この点、私たちは「がんに苦しむ人々を経済的苦難から救いたい」という創業の想いに基づき、また、長年がん保険の提供を通じて培ってきた知識や経験を生かして社会に貢献するために、まずキャンサーエコシステムの一環としてがんに関するヘルスケア事業に取り組むことにしたのです。

 一方、がんに関するヘルスケア事業については、私たちだけですべてはできません。がんに関する社会的課題の解決に関心の高い医療機関、大学・研究機関、企業などと連携・協業する必要があります。したがって、競争と同時にパートナーとの連携・協業もとても重要になってきます。どのようなパートナーと連携・協業できるかがエコシステム構築の成功の鍵であるという点では、連携・協業するパートナーをめぐって競争しているとも言えるかもしれません。

これまで競合関係だった生命保険の同業他社も、コラボレーションの相手になるかもしれませんね。

 はい、他の生命保険会社でも保険の枠を超えて新たな価値を創造していこうと考えている会社が出てきていますが、社会的課題の解決のために、お互いに連携・協業することもあると思います。例えば、お客様の利便性を向上させるような業界横断的なインフラについては、連携・協業しなければ実現しませんし、連携・協業することで各社の業務も効率化し、そのぶん経営資源を成長への投資に振り向けることができます。競争領域では各社が知恵を絞って競争しつつ、非競争領域では連携・協業するということも今後多く見られるようになるのではないでしょうか。

 いずれにしても、社会的課題の解決に取り組もうとすれば、ステークホルダーと連携・協業して行っていくことが重要であるということです。私たちのキャンサーエコシステムも、医療機関、大学・研究機関、企業などと連携・協業して、がんに関する社会的課題の解決に取り組んでいきたいと考えています。

(タイトル部のImage:川島 彩水)