高齢化が進む2040年を見据えて一段と重要になる健康寿命
飯島 2040年にかけて一番重要な変化は高齢者の中でさらに高齢化が進むことです。2040年ごろには85歳以上人口が1000万人を突破し、高齢人口の3割近くになるとされます。通院困難者の増加で入院件数が増え、社会保障費の膨張が大きな課題になります。
その前に手を打つべきこととしては、田辺市長の仰った住民の「当事者意識」あるいは「健康リテラシー」の醸成が重要です。健康に関する関心や意識づけは簡単に醸成されるものではなく、あるときすっとスイッチが入るわけではありません。ですから日本が今取り組むべきは、全世代に向けて「自分の健康は自分で守るんだ」ということを自覚してもらうことだと思います。
高齢世代に対しては早期からの予防が肝心であり、私は2014年に「フレイル(虚弱)」という概念を日本老年医学会の立場から提唱しました。フレイルは加齢によって心身機能や認知機能が低下した状態で、早めに対処すると、要介護状態に進まずにすむ可能性があります。最近は口の機能が衰える「オーラルフレイル」対策の重要性も積極的に訴えているところです。
2040年を見据え、日本歯科医師会では歯科ビジョンを策定したと伺いました。
堀 私が日歯の役員として関わるようになったのは2006年からですので、足掛け15年になります。その間、徐々に明らかになってきた口腔機能管理の重要性に関するエビデンスを発信し続けてきました。その結果、先ほどから出てきている、健康寿命の延伸に、歯科f貢献できるということで、政府の「骨太の方針」にも歯科に関する文言が盛り込まれるに至っています。それらを踏まえて、2040年に向けて、我々が行うべき具体的なアクションをまとめようということで作成したのが「2040年を見据えた歯科ビジョン」です。
中身は4部構成になっており、第1部でこれからの歯科医療が担う役割と責任を宣言するともに、具体的なアクションを展開することへの決意を明らかにしています。第2部ではデータ分析を行い、2040年の社会と今後の歯科医療の行方を展望。第3〜4部では2040年に向けて取り組む5つの柱を明記して、その柱実現のための具体的な戦略アクションを記載。この中でお話のあった、オーラルフレイルや健康まちづくり、予防の推進、在宅歯科医療、医療連携や健康リテラシーなどにも触れ、今後の対応策を示しています。
西澤 歯科医師会が「歯科ビジョン」を策定されたことは、日本社会全体にとっても大変意義深いことだと感じています。事業経営者として申し上げると、大きな事業を成し遂げたり、変革を起こしたりする際には、具体的で志の高いビジョンと、遂行する最高の熱意が必要です。それが、さまざまな組織や個人の共感を呼び、大きなパワー・うねりとなって社会への貢献につながっていくと思っております。今回の「歯科ビジョン」も必ずやそのような形で実現されていくと期待しており、私自身もビジョンの達成に少なからず貢献していきたいと思っています。