口腔健康管理を徹底すれば医療の財政側面にも貢献

人生100年時代を乗り切るため、口腔健康管理が持つポテンシャルの大きさについて、堀先生からもう少し解説をいただけますか。

 実際に入院日数の短縮や医療費の削減につながるという調査結果が出ています。例えば、千葉大学医学部附属病院に手術などで入院されている患者を、歯科医師の診断のもと、歯科専門職が口腔機能管理を徹底した場合、各診療科で在院日数が10%以上減りました。また、大阪警察病院では医療費に着目した調査が行われています。年間815件のがん治療の医療費について口腔機能管理を徹底したケースと徹底できなかったケースを比較したところ、前者のほうが平均で15%低い結果が得られました。

 3年前には日本歯科総合研究機構が、230万件の医科と歯科の診療報酬請求明細書の分析によって歯が20本以上あるグループの方が医療費が低いという結論を得ています。

 我々は80歳に20本以上の歯を保つことを目指す「8020運動」を30年以上展開してきましたが、その正当性を示すデータだと考えています。

堀 憲郎 (ほり・けんろう) 氏
公益社団法人 日本歯科医師会 会長
1952年生まれ。新潟県出身。歯科医師。日本歯科大学卒業後、新潟県長岡市にて開業。新潟県歯科医師会常務理事、専務理事、日本歯科医師会理事、常務理事、中央社会保険医療協議会委員、社会保障審議会医療保険部会委員を歴任し、2016年3月より現職

飯島 我々も介護が要らない健康な生活を送るには、フレイル予防のための3つの柱「栄養(食・口腔)と運動と社会参加」が一体で必要になることを訴えてきました。それを伝えるための概念がフレイルやオーラルフレイルです。高齢者が参加する大規模な調査研究も複数行っていますが、その1つではオーラルフレイルの有無で新規の要介護や死亡率が2倍強違うことが分かっています。

SOMPOグループは、SOMPOケアで介護事業を展開しており、調査も行っているそうですね。

西澤 SOMPOケアには432の介護施設があり、約2万3000人の入居者がいらっしゃいます。利用者にヒアリング調査を毎年実施していますが、「楽しみにしていること」は数年前からベストスリーが同じで、1位が食事、2位が人との交流、3位が外出で、そのすべてに関係しているのが口腔機能である「食べること」と「話すこと」です。

 SOMPOケアの介護施設では、口腔内のトラブルの予防、誤嚥性肺炎の予防、脳梗塞や感染症、また認知症の予防、さらには転倒防止の観点から、口腔健康管理を非常に重視しており、新入社員の研修で、口腔健康管理を取り上げ、実践研究も行っています。

 また、全施設で訪問歯科の先生に来ていただいて、定期的な歯科健診を実施しています。

 最近は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で高齢者の施設における閉じこもりが課題になっていますが、「SOMPOケアスマイル体操」を開発して利用者の運動機能維持に取り組んでいます。動画も無料配信しており、口元の運動にフォーカスをした口腔体操も取り入れております。

田辺 皆さまの発言をお聞きして「我が意を得たり」と思うことが多数ありました。今すぐ東京へ飛んで行ってハイタッチしたいぐらいです(笑)。静岡市では、私が施政方針の1丁目1番地として市を行政管理型から行政経営型の組織へ変えたい、その1つとして官民連携を取り入れたいと呼びかけたところ、地元の歯科医師会に協力をいただきました。市の担当者が歯科医師の皆さまと、激論を交わしたり勉強会をしたりして、その声を反映した「静岡市歯と口腔の健康づくりの推進に関する条例」を2019年4月に施行しました。

 条例には政令指定都市として初めての要素を入れました。1つは先ほどから出ている「オーラルフレイル」という言葉を入れたこと、もう1つはその対策の実践者として「かかりつけ歯科医」の要素を盛り込んだことです。西澤社長のお話に驚きましたが、静岡市も口元の体操である「歯っぴー☆スマイル体操」をつくりました。デイサービスの現場、介護施設の現場、あるいは各家庭で実践しています。