人材育成に注力、街づくりにも乗り出す

 コミュニケーション・デザイン・センターでは、2019年から東京デザインプレックス研究所と共同で、医療や広告、デザインなど各界のトップランナーを講師に迎えた「ストリート・メディカル・スクール」も開設している。医療従事者やデザイナーなどが共に学ぶ場で、講義とフィールドワークを半年行った後、実装を目指したコンペを開く。目から鱗のユニークなアイデアも多い。

 たとえば、香りを感知する能力を測るチョコレート。パッケージには何の香りかは記載せず、香りの程度も何段階か用意されている(下図)。ユーザーが食べながら風味を推測し、自分の嗅覚の状態を知るというコンセプトだ。いわば、チョコが嗅覚のものさしになる。嗅覚の低下は新型コロナウイルス感染症だけでなく、パーキンソン病や認知症、副鼻腔炎、花粉症などでも起こる。チョコレートを食べることで嗅覚の異常にいち早く気づき、病気の早期発見に結びつく可能性があるわけだ。

風味にグラデーションをつけたチョコレートで嗅覚の状態がチェックできるという新しい発想を示したプレゼンテーションシート(資料提供:横浜市立大学 先端医科学研究センター コミュニケーション・デザイン・センター)

 また、「“初めての婦人科”を後押しする、マンガで学べる生理用ナプキン」の発案もあった。個包装のナプキンの剥離紙を利用して、体に関する情報をマンガでわかりやすく発信するというアイデアだ(下図)。生理の異常に早く気づき、婦人科受診のハードルを下げようとする。ある企業が関心を持ち、商業化に向けて動いているという。

ナプキンの余白を活用して、体を守るための情報を発信する(資料提供:横浜市立大学 先端医科学研究センター コミュニケーション・デザイン・センター)

 ストリート・メディカル・スクール発のプロダクトが、これからいくつか世に出てくることになるかもしれない。

 ストリート・メディカルのコンセプトは、生活者目線のいろいろなプロダクト開発へとつながっているが、今後はいよいよ街づくりにも拡張されていくという。2021年1月には、科学技術振興機構(JST)の「ムーンショット型研究開発事業」のミレニア・プログラムに武部教授らが応募した「ストリート・メディカル・シティ」と呼ぶプロジェクトが採択され、本格的に構想実現へと乗り出した。また、その第一ステップとして横浜市の関内駅周辺でこれから次々と着手される再開発との連携も模索しているという。

 「完成までに10年ほどかかる大きなプロジェクト。複数の企業からなるコンソーシアムに参加させてもらうことになった。私たちは『ストリート・メディカル・シティ構想』と呼んで、今、構想を練っている。そこに暮らす人が人間らしく生きられる、自分のやりたいこと、ありたい姿を自然に体現できる、そんな自己実現が自然に叶う仕掛けを街の中にいろいろと作っていきたい。この記事を読んでくれた方で、もしもよいアイデアがあれば、大歓迎です!」と武部教授は言う。

 ストリート・メディカルが、実際のストリート(街)の形で可視化される。どんな街ができるのか、10年後が楽しみだ。

武部貴則(たけべ・たかのり)
1986年生まれ。横浜市立大学医学部卒業。横浜市立大学先端医科学研究センター コミュニケーション・デザイン・センター長/特別教授。東京医科歯科大学総合研究機構先端医歯工学創成研究部門教授。創生医学コンソーシアム臓器発生・創生ユニット長。シンシナティ小児病院オルガノイドセンター副センター長。2013年、iPS細胞から血管構造を持つヒト肝臓原基(ミニ肝臓)を作り出すことに世界で初めて成功。デザインや広告の手法で医療情報を伝え、新しい医療へのアップデートを目指す「ストリート・メディカル」の普及にも力を入れている。著書に『治療では遅すぎる。ひとびとの生活をデザインする「新しい医療」の再定義』(日本経済新聞出版)がある

(タイトル部のImage:稲垣 純也)