疲労がたまっていたりストレスを感じたりしているとき皮膚から揮発するアンモニア臭を感知する、皮膚に貼り付けるだけで70種類の皮膚ガスを計測し入院患者の健康状態をモニターする――。現在、こうした「皮膚ガスセンサー」の開発が進められ、様々な活用が模索されているのをご存じだろうか。開発者は、東海大学理学部化学科の関根嘉香教授だ。「皮膚ガスは生体情報である」という視点で研究を進める関根教授に、「体臭の見える化」が拓く医療・健康への活用の道を聞いた。

疲労やストレス臭をウエアラブルデバイスで「見える化」

 腕時計型のデバイスを腕に装着して15分、ピンク色に染まった小さな円が浮かび上がってきた。「お疲れ気味か緊張気味のようですね」と言うのは、東海大学理学部化学科の関根嘉香教授。「アンモニア・インジケータ」というこのデバイスは、皮膚から揮発するアンモニア成分を検出するもの。関根教授は、(1)ストレスや疲労がたまると皮膚から放散されるアンモニア量が増加すること[1]、(2)病院に勤務する医師を対象とした実験で、緊張時に優位になる交感神経の働きと皮膚アンモニア測定値は相関することを確かめている。「自覚しにくい肉体・精神疲労を反映する指標として役立つのでは、とデバイスを開発しました」(関根教授。以下、コメントは全て同)。

 関根教授は共同研究者と共にある企業の従業員40人を対象に皮膚ガス中のアンモニアを計測したところ、「濃い紫色になった2名の方は、その後、軽いうつを発症しました。同じ作業や行動をしていても感じる疲労度には個人差があります。特に、疲労がたまっているのに本人がそれを認識していないような場合は、このデバイスが客観的指標として役立つはずです」。

関根教授が開発した「アンモニア・インジケータ」。腕時計のように装着すると、血管から皮膚表面に揮発する皮膚ガスを集める。皮膚ガスのうち、アンモニアを検知するようつくられた黄色い検知部の変色を観察。肉体的・精神的疲労がある場合はピンク色になり、濃い紫色になるとかなり疲労が蓄積していると判断する。「アンモニア・インジケータ」は臨床研究で活用中(写真:福知彰子、以下同)
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関根教授が開発した「アンモニア・インジケータ」。腕時計のように装着すると、血管から皮膚表面に揮発する皮膚ガスを集める。皮膚ガスのうち、アンモニアを検知するようつくられた黄色い検知部の変色を観察。肉体的・精神的疲労がある場合はピンク色になり、濃い紫色になるとかなり疲労が蓄積していると判断する。「アンモニア・インジケータ」は臨床研究で活用中(写真:福知彰子、以下同)
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関根教授が開発した「アンモニア・インジケータ」。腕時計のように装着すると、血管から皮膚表面に揮発する皮膚ガスを集める。皮膚ガスのうち、アンモニアを検知するようつくられた黄色い検知部の変色を観察。肉体的・精神的疲労がある場合はピンク色になり、濃い紫色になるとかなり疲労が蓄積していると判断する。「アンモニア・インジケータ」は臨床研究で活用中(写真:福知彰子、以下同)

 関根教授が皮膚ガスに着目したのは、ある偶然がきっかけだった。1990年代、関根教授はPM2.5などの大気環境汚染や、シックハウス症候群に代表される室内環境汚染を研究していたが、あるとき、室内の空気を捕集して含有物質を分析したところ、「室内にあるはずのない物質の濃度が上昇している」ことに気づく。もしかしたら計測している自分たちの体から出ている物質では──。「そう思い汚染物質の測定器を腕に付けてみると、やはり発生源は自分たちの体で、微量の皮膚ガスが出ていることが分かったのです」。

 従来より体臭に関する研究は行われていたが、「どんな皮膚ガスがどれだけ出ているか、どのような環境下で変化するか」という研究は皆無だった。関根教授は2004年より皮膚ガス研究に取り組み始めた。