「アナログ・リレー方式」から「リアルタイム共有方式」へ

 中田氏がSmart119の活動で最初に手がけたのが、Smart119という救急出動支援システムの設計・開発だ(図1)。

 これまでの救急出動の流れは「アナログ・リレー方式」(図1の左側)だった。まず、住民が消防指令センターに119通報をし、救急車が手配され、救急車が患者を受け入れて医療機関に運ぶという方式だ。

 「消防指令センターは救急隊に患者の一報をつなぎ、救急隊はメモなどをとり、患者を搬送しつつ医療機関に電話で情報を伝えます。つまり医師に情報が伝わるのは最後の最後、救急車が到着する直前の30秒から1分ほどの電話によるものです。しかも、こうした情報伝達は “伝言ゲーム”になりがちで、正確には伝わりづらい。必要なのは1つの正しい情報です。図の右側のように、それを真ん中に集め共有することで、より早く正確に情報のリレーが行われることを目指しました」

図1●救急出動支援システム「Smart119」のイメージ図
図1●救急出動支援システム「Smart119」のイメージ図
「Smart119」は、救命のために必要な情報を、住民、消防指令センター、救急隊、医療機関が同時共有。時間的ロスを防いで医療準備を進められるのもメリットの1つ(画像出所:Smart119)
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 住民、消防指令センター、救急隊、医療機関の真ん中に1つの情報を置く「リアルタイム共有方式」で期待、得られるメリットは以下のようなもの。

●住民(患者)のメリット
救急搬入困難者(いわゆるたらい回し)がなくなり、適切な医療に早くアクセスできる。 搬送時間が短縮され、重症化の防止、救命率が向上。

●消防指令センターのメリット
通報時の音声を自動的にテキストデータに変換できる。救急隊のタブレット端末に転送され、正確な情報伝達と業務負担の軽減が可能に。

●救急隊のメリット
複数の病院に一括で受け入れ打診ができる。受け入れの可否が素早く判明し、たらい回しを予防、受け入れ要請の時間と手間を省ける。緊急実務実施報告書の自動作成もされ、報告書作成時間を省ける。

●受け入れ医療機関のメリット
指令センターと救急隊からリアルタイムで送信される患者容体から、受け入れ判断がしやすくなる。移送中のバイタルサインなど数値情報をリアルタイムで確認でき、受け入れ準備をスムーズに整えられる。

 Smart119は、Android端末を使い、タッチパネルやキーボード操作だけでなく、音声認識による自動入力が可能なことも特徴の1つだ。消防指令センターに寄せられた通報の復唱音声を自動的にテキストデータに変換し、救急隊のタブレットに転送。救急隊は現場状況を手で入力、あるいは音声入力も可能。「言葉を正しく文字化できる確率は91.6%で、精度は担保されています」。

 こうした効率的なシステムを使うことにより、一刻の猶予もない現場で、「より早く、正しく」が実現されるというわけだ。Smart119は、2020年7月から千葉市消防局で採用され、ちば消防共同指令センター、同局の救急車25台に搭載されて運用されている。

救急隊がタブレットから入力した情報は、すぐに現場の医師に届けられ、専門医の招集など受け入れ準備をすぐに始めることができる。「私はいつもスマホで通知を受け取っています」と中田氏(写真:福知 彰子、以下同)
救急隊がタブレットから入力した情報は、すぐに現場の医師に届けられ、専門医の招集など受け入れ準備をすぐに始めることができる。「私はいつもスマホで通知を受け取っています」と中田氏(写真:福知 彰子、以下同)
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