脳卒中の可能性をAI解析、急性期治療のスタートを早められる

 情報のリアルタイム共有に加え、「より早く、正しく」治療が行われるために、中田氏がもう1つ「欠かせないもの」として取り組んでいるのが「予測診断」システムの開発だ。まずターゲットにしたのが「脳卒中」。三大疾病であるがん、急性心筋梗塞、脳卒中は救急搬入数に占める割合が多い病気だ。

 「なかでも脳卒中は突発的に発病しやすく、何種類かの病状に分類されます。救命はもちろん、片麻痺などの後遺症を抑えるためにも、迅速かつ最適な急性期治療が求められます。しかし、現実は救急隊でも隊員によって適切に判断できる方と、そうではない方の差は見られます。また『脳卒中が疑われます』と電話で言われても、それがどのぐらいの精度かは実際に診るまで分かりません。病状の特定は、最終的に病院到着後に行う、というのが通常でした」

 そこで、中田氏はAI予測診断のための開発に着手。2018年より、千葉市内の医療機関や千葉市消防局の協力を得て、救急搬送時に脳卒中の可能性あり、と判断された救急患者約1500人のデータを収集。うち、1200人分のデータをベースに、搬入時の状態・条件(容体、疾患履歴、気象状況など)から脳卒中の可能性や症状を判断する予測アルゴリズムを開発。研究によって精度(AUC値)を上げ、高精度とされる閾(しきい)値0.8を上回る0.980となる水準に達し、その結果を国際科学誌「Scientific Reports」に発表、大きな反響が寄せられているというのは冒頭で触れた通りだ。[1]

 「脳卒中AI予測アルゴリズム」の仕組みを、少し詳しく見ていこう(図2、3)。①患者に脳卒中の可能性があると判断した場合、救急隊は「脳卒中診断ボタン」をタップし、診断専用ページから、選択肢に従い容体(血圧、頭痛、けいれん、麻痺の有無など)を入力する。②AI予測診断により導かれた病状に対応できる専門医、設備がある医療機関が自動選択され、受け入れ要請が実施される。③受け入れ医療機関は、これらの情報をもとに、専門医を招集したり、救急車が到着するまでに緊急手術などの準備をしたりすることができる。

 「救急隊が脳卒中を疑ったときに、その場で所見を取りに行ってくれるメリットは大きいです。同じ脳卒中でも、出血する、詰まるなど、脳に何が起こっているかを判別するのは難しいのですが、そこを高精度のAIが解析してくれます。本年度中に試作機づくりを完了し、千葉市の救急車で実装している『Smart119』に追加機能として搭載する予定です」

 脳卒中の診断については、映像や音声を利用したAI予測など、さらなる開発も進められている。脳卒中の診断をするとき、医師は目の動きを見たり、顔のゆがみから顔面麻痺をチェックしたりする。「そこで、救急車内に取り付けたカメラやマイクで自動的に読み取った情報を医療機関と共有する、ということができないか、研究しています」。AI予測の開発は、心筋梗塞についても進められているという。

図2●脳卒中予測アルゴリズム(モデル概略図)
図2●脳卒中予測アルゴリズム(モデル概略図)
救急隊の判断の精度を高め、医療機関での急性期治療の迅速化につなげる「脳卒中予測アルゴリズム」。脳卒中の可能性、さらに「くも膜下出血」「脳梗塞」「脳出血」「主幹動脈閉塞」のうちどれである可能性が高いかをAIが予測、医師は予測を元に治療の準備態勢を整える
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図3●AI予測診断機能画面(デモ画面)
図3●AI予測診断機能画面(デモ画面)
救急隊と医師が情報を共有する、AI予測診断機能の画面。「脳卒中診断」のボタンを画面に配置。救急隊がこのボタンをタップし、患者の容体や年齢、性別、当日の天気などを入力すると、脳梗塞や脳出血といった病状を自動判定、専門医や設備が整った医療機関が自動選択され患者の受け入れ要請を出してくれる、というシステムだ
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