患者自身が「自分を守る」仕組み、個人アプリも開発中
中田氏が手掛けているのは、実は医療の受け入れ側のシステム開発だけではない。患者側の準備として個人向けアプリも開発中だ。
「救急外来で患者さんを診療するとき、当たり前のようなこととして、“治療が終わる頃にお薬手帳が出てくる”という現象があるのです。最後になって、この薬を飲んでいたとか、ご家族と連絡が取れ、実は3日前まで隣の病院に入院していた、ということが判明する。現場ではそんなものだ、と思っています。しかし、このような無駄はなくしたいし、患者さんがいざというときに自分の情報を正確に提示できない、自分を守る仕組みがないことは大問題だと思っています」
最低限、診察券があれば受診している医療機関が分かる。また、明細書をスマホで撮影しておけば、飲んでいる薬も分かる。
個人用アプリの仕様は、概ね以下のようになっている。本人が診察券や保険証、処方箋などをスマホで写真撮影すると、アプリは文字認識機能によってデータを蓄積する。離れて暮らす家族ともグループをつくれば情報を共有できる。アプリは日常の「お薬手帳」として機能するほか、いざ「救急車を呼んでもいいのか」と困る事態が起こったとき、チャット形式でAIとコミュニケーションすれば、アプリが個人の既往症や薬歴からAI救急診断支援へとつなげるところまで想定し、開発をしている。
「この開発の話をしているとき、ある方が『都内の自治体では、冷蔵庫に飲んでいる薬と病名を書いて貼っておくことを呼びかけていますよ』とおっしゃっていました。しかし、それは、自宅で倒れた方以外は助けられない、ということを意味しています」
常に持ち歩くスマホにこれらの情報を搭載しておけば、そのアプリが自分の命を守り、適切な医療に結びつけてくれることを期待できる。いざ救急車に乗るとなったとき、本人はもちろん家族も、冷静かつ正確に情報を伝えられるという人は少ないだろう。スマホ1台で情報を管理し、医療機関につなげてくれることは大きな安心につながる。
「情報を手間なく皆で活用する、そのルートの1つでも欠けると、本来あるはずのセーフティネットが機能しなくなります。AIというテクノロジーをどうやってうまく使いこなすかをテーマに、今後も現場の声を拾いながら、医療を変えていきたいと思います」
救急車を呼ぶのは、家族や身近な人といるときだけとは限らない。いざというときにAIがチャット形式で対応し、救急車も自動で呼んでくれる未来も、すぐそこにやってきている。
[参考文献]
(タイトル部のImage:福知 彰子)