買い物をするだけで栄養バランスがわかり、食生活の改善につながる──。そんな栄養管理アプリ「SIRU+」(シルタス)を活用した実証実験が静岡県藤枝市で2021年2月にスタートした(関連記事:買い物をするだけで食生活を改善!? 藤枝市で実証実験)。その結果、野菜の購買点数の増加、食塩相当量の摂取の減少など、食生活の改善が見られたという。こうした結果を踏まえ、対象者を広げ、期間と実施店舗を拡大させた実証実験を同年8月に開始した同市。市長の北村氏に、その背景や狙いを聞いた。

(聞き手は小谷 卓也=Beyond Health)

藤枝市における健康増進の取り組みについてお聞かせください。

 行政を預かる立場として、最大の責務は市民の皆さんが幸せに暮らせることです。幸せとはすなわち、毎日を安全・安心に過ごすことにほかなりません。その暮らしを実現するため、藤枝市では「4K施策」を掲げています。これは健康、教育、環境、危機管理の頭文字を取ったものです。

 健康は、4K施策の中でも重要項目。なぜなら健康は、すべての源だからです。健康でなければ仕事への意欲が湧いてきませんし、人生を楽しく過ごすこともできません。市民の皆さんが健康ならば、藤枝市そのものが健康になります。逆に言えば、街が健康ならば市民の皆さんが健康で暮らせるということです。

 この観点から、「“まち”と“ひと”が元気な健康都市・藤枝」を目指すべき姿に定め、現在「第2期ふじえだ健康都市創生総合戦略」を展開しています。その中心となる取り組みが「“健康・予防日本一”ふじえだプロジェクト」です。

藤枝市長の北村氏(写真:上野 英和、以下同)
藤枝市長の北村氏(写真:上野 英和、以下同)
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 また藤枝市には、1984年(昭和59年)に自治会組織を基盤として発足した保健委員制度があります。保健委員は各自治会、町内会に配置され、その数は1000人近くにも上ります。そこではお互いに健康について話し合い、地域ぐるみで健康に対する意識を高めています。さらに、健康づくり食生活推進協議会が「食」を通じた健康づくりの推進を行っています。

若い世代に向けた予防策を

健康に対して非常に意識的な印象を受けます。

 おっしゃる通りです。こうした積極的なアクションもあり、藤枝市は静岡県内の各自治体の中でも健康施策が進んでいると自負しています。コロナ前には特定健診の受診率が5割近くになりましたが、これは県内10万人以上の市でトップの数字でした。

 行政が健診を受けてもらうための仕組みを整備している点も大きい。特定健診とあわせてがん検診も注力しており、肺がん、大腸がん、子宮頸がん、乳がんの受診率は県平均や全国平均を大きく上回っています。

 特定健診の検査項目は県全体と比較すると概ね良好な数値となりましたが、血圧測定だけが県の平均値よりも悪く、働き盛り世代に高血圧予備軍が多いことが見えてきました。よく知られたことですが、高血圧をはじめとする生活習慣病は脳卒中などのほかの疾患を引き起こす要因になります。そのため、若いうちからの高血圧予防が大切だと考え、若い世代に向けた予防策を実施することにしました。

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どのような予防策ですか。

 社会の中でデジタル化が急速に進展し、若い世代はスマートフォンをはじめとして、デジタル活用に慣れ親しんでいます。その習慣を生かして、デジタルによる健康改善のアプローチをしていくことが非常に有効だと考えました。それにデジタルは非対面で、人的資源を削減しながら効率的に高血圧対策にアプローチできる利点があります。

データ利活用をさらに推進

それが栄養管理アプリ「SIRU+」(シルタス)の実証につながったわけですね。実証の様子を教えていただけますか。

 食品の購買履歴から食生活改善を提案するシルタスの仕組みは素晴らしいと感じています(関連記事:「頑張らなくてもいいヘルスケアサービス」を広めたい)。アプリを使うだけで自らの食生活に気づきを与え、行動変容につながるきっかけとなるわけですから。ひいてはそれが、健康的な食生活の定着へと発展することを期待しています。

 藤枝市と連携しているのは、県内で31店舗を展開するスーパーのしずてつストアです。スーパーのポイントカードを登録するだけで、購買情報がアプリに自動連携されます。栄養価を計算するだけではなく、AIが購買履歴を分析して栄養バランスを整えるための食材や、オススメのレシピを提案してくれます。

 例えば毎回食事の写真を撮って投稿したり、記録を入力したりといったように、市民に負担を強いるような仕組みだと継続は難しくなります。しかしシルタスのシステムはポイントカードを見せるだけなので、無理なく続けることができます。アプリ提供者のシルタスは「買い物するだけで健康になる」ことをうたっていますが、気軽に食生活改善につなげられる点が最大の特徴だと思います。

 具体的には2021年8月1日〜2022年1月31日まで、藤枝市民、しずてつストア従業員とその家族300人を対象に半年間の実証を行ないます。2020年に、しずてつストアと市職員あわせて130人が試験運用を実施したところ、1カ月間と短い期間ながら、「食習慣改善の意識づけに非常に役立った」との声が多数寄せられました。今回の実証では、より拡大して効果を計測するのが狙いです。

 2020年は藤枝市内の店舗だけでしたが、今回は市外の店舗も含み、全31店舗を実証対象としました。やはりポイントは、頑張らなくてもいいということ。日常生活のルーティンに組み込まれている施策なので、とくに若い世代にとっての効果は高いと思います。

実証を経ての今後の展望は。

 この仕組みをより実効的なものとして定着させていきたいと考えています。現在は行政が牽引していますが、シルタスの取り組みが一般化すれば、市民が率先して採り入れていくはずです。我々としても、各個人の自発的な健康管理への行動変容につながることが理想の姿です。

 さらに今後は、行政にとってデータに基づく施策が必要不可欠になってきます。市民の皆さんの安全、快適、便利な生活を実現するためにはデータ利活用をさらに進めていかねばなりません。いまは食分野での活用ですが、4K施策のどの分野にも応用できるに違いない。蓄積したデータを分析することで、新たな発見や活用につながるでしょう。それを踏まえ、シルタスの取り組みを契機として、データ利活用をさらに推進していくつもりです。

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(タイトル部のImage:上野 英和)