肥満解消というと、食事制限や運動を思い浮かべる人が多いだろう。しかし、食べ方とも密接な関係がある。「肥満」と「噛むこと」について研究を行ってきた早稲田大学スポーツ科学学術院教授の林直亨氏らは、昨年「噛む、味わうだけで食後のエネルギー消費量が増え、5分間食べ方を変えるとその効果は食後90分まで続く」ことを発表し、注目を集めている。「どう食べるかは、体重管理だけでなく、食のサステイナビリティにとっても重要な問題」と話す林氏に、研究の内容と目的について聞いた。
コロナ禍で増えている肥満、早食いは肥満のもと
新型コロナウイルス感染症の流行によって、外出を控え、オンライン中心で仕事をする生活が続いている。厚生労働省が行った「新型コロナウイルス感染症に対応した新しい生活様式による生活習慣の変化およびその健康影響の解明に向けた研究」(2021年3月、20~79歳までの男女8万3216人対象)によると、コロナ感染拡大後は、体重、BMI(肥満度)ともに有意に増加する傾向が見られる一方、身体活動量は有意に低下していた(図1)。この「国民の肥満傾向」は今後も継続する可能性がある。

思うように人と会えず外出もしづらい日々の中、楽しみは食べること……という人も多いだろう。しかし、食欲に身を任せるままでは肥満となり、生活習慣病やがんのリスクにもつながっていく。
そんな中、昨年「噛むことによって食後のエネルギー消費量が増加する」ことを明らかにする論文を発表し、注目を集めているのが、早稲田大学スポーツ科学学術院教授の林直亨氏だ。
肥満予防のためには、「食事を減らしてエネルギー摂取量を減少させること、運動量を増やしてエネルギー消費量を増加させること」が基本とされる。摂取エネルギーを減らすためには、食べる量を減らしたり、カロリーの少ない食品を選んだりといった対策が有効だが、食べる楽しみを削られるがゆえ、実践と継続が難しいのが現実だ。
一方で、「よく噛む」「ゆっくり食べる」といった「どう食べるか」に着目する研究も行われてきた。
例えば、アメリカ人の実業家Horace Fletcher氏(1849~1919年)は、生命保険に加入できないほどの肥満だったが、よく噛んで食べることを実践した。健康な体を取り戻し、1口30~40回、よく噛んで食べる「フレッチャーイズム」を欧米で普及させ、食べる速さと体型の関係が世界でも研究されてきた。
林氏も長年、噛む回数や食事時間など「どう食べるか」をテーマに研究を行ってきた。
女子大学生84人におにぎり1個を食べてもらい、噛む回数や総食事時間と体重、BMIの関係を見たところ、食べる速さが速く、飲み込むまでの咀嚼回数が少ないほど、体重やBMIが増加する傾向にある、つまり「早食いは太りやすい」ことが分かった[1]。
「どう食べるか」には、岡山大学で2014年に発表されたこんな研究もある。大学生1314人を対象に3年間の追跡調査を行った結果、早食いの人は早食いでない人よりも4.4倍肥満になりやすく、男性は女性よりも2.8倍肥満になりやすいことが分かった(図2)。この研究において「早食い」は、「脂っこいものを好んで食べる」や「満腹まで食べる」よりも肥満との相関が強いという結果が得られた。