自分自身の思考や知覚などを認知し、主観的な評価を行う能力であるメタ認知。ヒトはメタ認知能力によって効果的な学習を実現し、とりわけ「内省」はヒトの理性や想像力の基本となる重要な能力だと考えられている。こうしたメタ認知が生まれるメカニズムの解明に取り組み、その一端を世界で初めて明らかにしたのが、理化学研究所脳神経科学研究センター思考・実行機能研究チームのチームリーダー宮本健太郎氏らだ。同研究は、内省に起因する精神疾患の治療法開発や、人工知能(AI)などへの応用の期待も大きい。研究内容や活用の可能性などについて、宮本氏に聞いた。

生物学的なアプローチで「メタ認知」の仕組みを解明

 生きづらさの原因となる精神疾患の治療や、デジタルトランスフォーメーション(DX。デジタル技術の浸透が人々の生活をよりよく変化させるという理論)化社会において重要な基幹技術となる人工知能(AI)などへの貢献期待を背景として、「メタ認知」の仕組みの解明に対する関心が高まっている。

 メタ認知とは、「自らの思考や知覚を認知し、主観的にとらえてその確からしさを評価する能力」のこと。例えば「あの有名人の名前を思い出せない」というとき、そのままがんばって思い出そうとするか、諦めてスマホで検索するかを決める前に、私たちは「自分の記憶レベルがどの程度か」を探っている。

 「試験を控えた前日に全然準備が出来ていないというときにも、『どこを集中的に勉強するか』を判断するには『準備が出来ていないのはどの部分か』を、自身の記憶をたどって確かめる必要があります。このように、単純な記憶を引き出すのとは別に、自らの思考や知覚を認知し、主観的にとらえて評価する能力が、メタ認知です。メタ(=高次)認知は、哲学者ソクラテスが説いた無知の知、つまり『自分が分かっていないことを自覚する』ことでもあります」と、理化学研究所脳神経科学研究センター思考・実行機能研究チームのチームリーダー、宮本健太郎氏は説明する。

 宮本氏はこの、人間の知の象徴とも言えるメタ認知のメカニズムを、実際の脳活動を見ることによって解明しようとしている。

 「メタ認知は、心理学の分野では概念として知られてきました。しかし、実際に脳で何か起こっているのか、起こっているならどのように起こっているのかは未解明でした」。

理化学研究所脳神経科学研究センター 思考・実行機能研究チームのチームリーダー、宮本健太郎氏(写真:鈴木正美、以下注記のないものは同)
理化学研究所脳神経科学研究センター 思考・実行機能研究チームのチームリーダー、宮本健太郎氏(写真:鈴木正美、以下注記のないものは同)
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 宮本氏は、生物学的なアプローチでメタ認知の仕組みを確かめたいと考え、「記憶」を手がかりに研究に取り組むことにした。「記憶は、その人がそれまでに見たもの、聞いたもの、経験したことなどの集合体で、人格や個性を形作る基礎となります。自分自身の過去の記憶を自己評価するメタ認知能力は“メタ記憶”と呼ばれますが、実際に心の動きをヒトで調べるのは非常に難しい」(宮本氏)。

 そこで研究対象にしたのが、ヒトと生物学的に近しいマカクサルだ。サルとヒトは共通点が多い。認知機能や知覚・運動機能などを幅広く司る脳の前頭葉が発達しており、集団生活をし、互いに意思を読み取りながら行動をしていることに加え、「サルには自らがやっていることを俯瞰的に評価するメタ認知能力があることもこれまでの比較認知科学研究によって知られています」(宮本氏)。

 宮本氏は、言葉で意思伝達できないサルの「メタ記憶」を行動学的かつ客観的に評価する実験方法を確立。研究の結果、「なじみ深いもの(記憶しているもの)」に対する自信と「未知のもの(記憶していないもの)」に対する自信を統合し、内省意識を生み出す部位が脳の大脳皮質の「後部頭頂葉」に存在することを世界で初めて発見、研究結果を2022年3月に科学雑誌『Cell Reports』に発表した1)

宮本氏の研究室に置かれていたオブジェ型ライト。「サルにメタ認知能力があることは、これまでの比較認知科学研究によって知られています」と宮本氏
宮本氏の研究室に置かれていたオブジェ型ライト。「サルにメタ認知能力があることは、これまでの比較認知科学研究によって知られています」と宮本氏
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