一般社団法人ピーペックは、病気をもつ人やその家族、患者会、企業や地域とつながり、「病気があっても大丈夫と言える社会」の実現に向けて様々な活動をしている。代表理事の宿野部武志(しゅくのべ・たけし)氏は、3歳のときに慢性腎炎にかかり、18歳から慢性腎不全のため約35年間、透析を受けている。自身の経験をもとに腎臓病患者の支援を行う中で気付いたのが、患者の声が医療業界や社会に伝わりにくい状況だった。病気をもつ人の体験が薬や治療などの開発につながるエコシステムの構築を始め、同法人が取り組んでいる事業や未来像を追った。

疾患を問わず、病気と向き合う人をサポート

 一般社団法人ピーペックは、難病や慢性疾患、がんなど病気を問わずに活動する患者支援団体だ。2019年に設立し、事業は、健康や病気に関する情報提供やイベント・講演の企画運営、病気をもつ人同士の交流会の開催、ライフサイエンス企業などに対する社員研修の企画運営、シンクタンクと協働した政策提言など多岐に渡る(図表1)

図表1●ピーペックの主な事業
図表1●ピーペックの主な事業
事業コンセプトは「病気をもつ人の“こえ”には、力がある」。「どうしようもある世の中」の実現を目指し、多様な事業を展開している(出所:ピーペックのHPをもとにBeyond Health作成)
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 ピーペック代表理事の宿野部氏が、患者支援活動に取り組みたいと思ったのは、今から約20年前の35歳のとき。もともとはソニーの人事グループに勤務し、週3回の透析治療と両立しながら働いていた。仕事は面白く、順調にキャリアを積んでいたが、「自分の人生のミッションは何だろう」と漠然と考えるようになる。他の透析患者が暗い表情をしているのが気になったり、人事の仕事で病気と向き合う社員の話に涙してしまったりする中で、「病気をもつ人や病気と向き合う人をサポートして生きていきたい」という決意が芽生え、37歳でソニーを退職した。

 その後、医療ソーシャルワーカーになるため専門学校で学び、社会福祉士の資格を取得。社会福祉協議会で働くようになるが、血圧が高くなり、社協で仕事することを医師から止められてしまう。

 「改めて、自分は何をすべきかを考えた時に、ずっと自分が向き合ってきた腎臓病や透析の患者さんが幸せになるために活動したいと思いました。そこで2010年に、腎臓病や透析患者の経験を生かして活動する、ペイシェントフッド(「患者であること」という意味)という団体を妻とともに設立。医療系雑誌に自分の経験を書いたり、製薬会社で講演をしたりするようになりました。起業した1年目は事業としては成立せず、年商は10万円くらい。しかし、それ以降も活動を続け、患者さん向けのウェブサイト『じんラボ』の運営、悩みを抱える患者さんに同じピア(仲間)として話を聴くピアサポートなど活動が広がりました」

 ペイシェントフッドの取り組みを通して、宿野部氏は難病やがんなどいろいろな疾患をもつ人に出会う。病気は違っていても、仕事や家族関係など共通の悩みがあることが分かり、交流していた仲間とともに病気をもつ人をサポートするピーペックを立ち上げた。ちなみにピーペック(PPeCC)とは、「病気をもつ人に力を」を意味するPower to the People with Chronic Conditionsの略だ。ペイシェントフッドは、2020年にピーペックに吸収合併した。現在のスタッフは、病気のある人とない人、合わせて12人。フルタイムでの勤務、業務委託、医療関連会社への出向など、多様な形態で仕事をしている。

ピーペック代表理事の宿野部武志氏(写真:村田わかな、以下注記のないものは同) 
ピーペック代表理事の宿野部武志氏(写真:村田わかな、以下注記のないものは同) 
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