やめたくてもどうしてもやめられないタバコ──。

 こうした症状は、医学的に「ニコチン依存症」という病気に分類される。一口にタバコへの依存といっても、身体的依存と心理的依存とが複合している。例えば、ニコチンが切れて体が震えてくるなどは、身体的依存に由来する症状で、ニコチンを補充する禁煙補助薬が一定の成果を上げている。問題なのは心理的依存だ。目覚めたときに無意識のうちにタバコに手を伸ばしてつい吸ってしまうというような生活習慣に根付いた依存なのだが、こちらには決定的な治療法がない。

 心理的依存の克服をスマホのアプリでサポートしようというのが、慶應義塾大学OBの医師である佐竹晃太氏らが2014年に立ち上げたキュア・アップだ。

治療アプリの仕組み(図:Beyond Healthが作成)

 開発中のアプリ「CureApp禁煙」は、患者がコミュニケーションを取ることでタバコへの心理的な依存を緩和することが期待されている。同社ではこのアプリを医薬品や医療機器を管轄する薬機法による承認を受けようと、実際の患者を対象に治験を行っており、近く厚労省に申請する予定で、早ければ2019年か2020年にも承認され、医療現場に登場することになる。

治療薬と同じか、しのぐ効果

  こうした病気の治療を目的としてスマートフォン向けに開発された医療向けアプリ(ソフトウエア医療機器)は治療アプリと呼ばれる。臨床試験(治験)を経て治療効果が確認されたものを指し、健康関連のヘルスケアアプリと区別される。

 治療アプリで先行する米国には、食品医薬品局(FDA)が承認した糖尿病治療アプリ「BlueStar」(米Welldoc社)が存在する。患者が日々の血糖値、食事の量、体重、運動量などのデータをスマホに入力するとソフトウエアが患者の状態を診断し、生活改善のアドバイスを送り、患者に行動変容を促すというもの。FDAはBlueStarを医薬品と同様の位置づけで承認、保険会社が本サービスに対して1カ月あたり100米ドルの保険償還している。

 日本国内でもスマホを通じて様々な健康情報を送るサービスが立ち上がっているが、これらと治療アプリの違いは、薬機法の「医療機器プログラム」に該当し、同法による有効性、安全性の規制を受けるか否かによる。既に巷にあふれる「減塩に関する一般的な情報を配信するアプリ」の類の製品に比べ、開発のハードルは格段に高くなるのだが、そこを乗り越えれば、公的な保険という後ろ盾もあり、事業成功の対価は大きい。そのため、大手製薬の中にも治療アプリの開発に名乗りをあげるところも出ている。

治療アプリが注目される4つ要因

 治療アプリに関心が集まる理由は4つある。

 1つは、スマホアプリ技術の進歩。使い勝手のよいアプリが多数登場し、使う側も慣れてきたことだ。アプリを開発する産業の裾野も広がっている。次が医薬品開発コストの高騰だ。1つの新薬を開発するためには、基礎研究期間も含めると十数年の年月と数千億円以上の費用が必要となる。対照的に治療アプリの開発コストは治療薬の100分の1から1000分の1で済む。また、佐竹社長のように、起業マインドを持った医師が増えてきたこと、彼らの多くが既存の医薬品ではなくアプリ開発に注目していることも無視できない。

 第4の理由が最も大きいのだが、これまでの医療が患者に行動変容をもたらし、治療効果に結びつけることにどちらかといえば苦手であったことだ。治療アプリが、ニコチン依存症や糖尿病など生活習慣病の治療に大きな効果を期待される理由がここにある。

(タイトル部のImage:Goss Vitalij -stock.adobe.com)