ヒト細胞への応用までには多くの課題

 ゲノム編集技術によって、遺伝子に関連した研究は確実に加速するとみられている。例えば、従来であれば、遺伝子を改変したノックアウトマウスという実験動物を作製するには年単位が掛かったが、ゲノム編集の技術によって1〜2カ月に短縮でき、特定の遺伝子の働きをより早期に調べられることになった。研究の期間を圧縮できるので、研究は加速することになる。どこまで確実に遺伝子を変えられるかで改良も必要とされるが、遺伝子の異常によって起こる様々な病気を治せるのではないかという期待が生まれている。

 クリスパーキャス9を発明したのは、米カリフォルニア大学バークレイ校のジェニファー・ダウドナと、スウェーデンウメオ大学のエマニュエル・シャルパンティエという2人の女性研究者とされるが、一方で、米ボストンのマサチューセッツ工科大学にあるブロード研究所も発明を主張。特許をめぐる紛争が継続している。

 ゲノム編集は、遺伝子の研究を進めることが期待される一方で、課題もある。遺伝子をピンポイントに変化させられるとはいっても、決まった箇所だけしか変化させないかと言えば、完全ではないことが指摘されている。研究目的としては許容できるものの、医療目的で使うためには遺伝子改変の質は十分ではないと見なされている。このため遺伝病の治療に応用されるビジョンはあるものの、まだ、遺伝子の変化を完全にはコントロールできないため時期尚早とみられている。

 にもかかわらず、人の遺伝子をゲノム編集によって変化させる試みがフライングで行われる懸念は拭えていない。中国では、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染の両親から生まれる子どもを、HIVに感染しづらいようにゲノム編集によってあらかじめ遺伝子改変させる行為が行われたとされる。遺伝子改変を行った、いわゆるデザイナーベイビーの一種と言えるが、問題は多い。ターゲットとなったHIV感染に関連する遺伝子は生命機能に幅広く関係すると考えられている。その改変によってほかの影響が及ぶかどうかは分からない。いったん改変されると、その子孫に永久にその影響が残る可能性がある。中国国内からも遺伝子改変を規制するよう動くべきという声も上がった。生命倫理的、国際協調、政治的な問題など、技術面ばかりではない多くの課題を解決していく必要があるのが現状と言える。


[参考文献]

Broad Communications.FOR JOURNALISTS: STATEMENT AND BACKGROUND ON THE CRISPR PATENT PROCESS Lancet. 2019;393:26-7. doi: 10.1016/S0140-6736(18)33082-4. Epub 2018 Dec 3.