不正の温床だった多能性幹細胞研究

 どんな細胞にも分化できる「多能性幹細胞」を医療に応用しようという研究は長年にわたって続いてきた。iPS細胞と並んで、医療での応用が検討されてきたのが、ES細胞(胚性幹細胞)と呼ばれる細胞である。1980年代にマウスで樹立に成功、1998年にはヒトでも樹立に成功した。このES細胞は、受精後6、7日目の「胚盤胞」と呼ばれるごく初期の段階に細胞を取り出して作られる細胞。ES細胞は多能性を保っているので、培養することで様々な細胞へと分化させることが可能となる。

 樹立成功によりES細胞の応用も検討されてきたが、課題が指摘されてきた。ヒトES細胞は現状では生殖補助医療で用いることがなかった余剰胚から作製するため、倫理的な問題をはらんだことが大きい。また、他人の細胞であることから、移植した場合に拒絶反応を起こす可能性が高く、免疫抑制薬の投与が必要となる。

 一方、多能性幹細胞の研究は、不正の温床にもなってきた。2004年から2005年にかけて、韓国ソウル国立大学のファン・ウソク氏が体細胞の核を卵に移植した「ヒトクローンES細胞」を作ったと発表。大きく注目されたが、その後に成果のねつ造が発覚。科学スキャンダルとして大きな問題として注目された。さらに、2013年には日本でも、理化学研究所に所属していた小保方晴子氏が「STAP細胞」と呼ばれる、化学的な刺激のみから多能性を持つ幹細胞を作ることができると発表し、やはり世界的な注目を集めたことがある。このときも論文の不正が判明し、調査を行った理化学研究所が、ES細胞の混入があったと結論づけるに至った。

 まさに不可能を可能とした技術とも見られる中で実現したのがiPS細胞だった。その後、iPS細胞は、国内外の研究機関においても作製がなされており、その存在は疑う余地はなくなっている。