進められる技術開発と臨床応用

 iPS細胞のこれからの課題は、いかに再生医療へと応用を進めていくかだ。

 一つは、iPS細胞の安全性を高める研究および技術開発だ。当初、iPS細胞は「山中カクテル」あるいは「山中因子」と呼ばれた、初期化のための4種類の遺伝子(Oct3/4、Sox2、Klf4、C-Myc)を、皮膚線維芽細胞などにある成熟細胞(体細胞)に導入することで作られた。しかも、ウイルス(レトロウイルスベクター)を使って遺伝子を導入して作られていた。このウイルスによる遺伝子導入を行うことから、ウイルスによる腫瘍化の恐れが指摘されてきた。さらに、導入する遺伝子の一つ「C-Myc」ががん遺伝子であり、やはりがん化のリスクと見なされていた。

 現在までに、こうしたリスクは低減化されてきている。2008年には、ウイルスを使わずに初期化遺伝子を導入する技術が確立された。初期化に用いる遺伝子についても、C-Mycを使わなくて済むようになった、その後も、より簡易にiPS細胞を作る技術を積み重ねることで、安全性の高いiPS細胞の作製が進められるようになっている。

 さらに、コストも課題になる。iPS細胞は、本人の細胞から作り出せるのがメリットであるが、実用化する上では作製の人手や時間、高額のコストがかかるのがネックとされた。京都大学では、iPS細胞のストックをあらかじめ確保し、それを使い移植をする計画を進めてきた(関連記事)。白血病の治療などで使われている「臍帯血バンク」のように、あらかじめ拒絶反応を起こしにくい、細胞の型の合うiPS細胞を多種類貯蔵し、速やかにiPS細胞の移植を行えるようにして、時間とコストを抑えるというものだ。こうした課題解決への対策は着実に進んでいる。

 このように、iPS細胞の応用は着実に進む方向となっている。日本では2014年11月、再生医療の実用化を促進する制度として「条件付き早期承認制度」が導入された(関連記事)。条件と期限を設けた上で、早期に承認されるファストトラックとなるものだ。製品発売後、市販後データに基づき、原則7年以内に正式な承認を受けるようにする。

 この制度の利用は広がろうとしている。2015年には、大阪大学の澤芳樹氏らのグループが研究を進めてきた、自家骨格筋由来幹細胞を使った細胞シートの早期承認が実現した。iPS細胞を使ったシートの臨床研究も進行中で、今後、同様の臨床応用が広がる可能性がある。ただ条件付き早期承認制度は海外から拙速だという批判も出ており、今後、iPS細胞の活用においても治療効果を科学的に検証して、データを公開しながら証明していく必要があるだろう。


[参考文献]

京都大学iPS細胞研究所ホームページ

文部科学省「ヒトES細胞研究・生殖細胞作成研究」

Nature. 2013 May 16;497(7449):295-6. doi: 10.1038/497295a.

理化学研究所「STAP細胞に関する研究論文の取り下げについて」

(タイトル部のImage:Goss Vitalij -stock.adobe.com)

■変更履歴
記事初出時、「ヒトES細胞は現状では中絶胎児などからしか入手できないため、倫理的な問題をはらんだことが大きい」と記載しておりましたが、「ヒトES細胞は現状では生殖補助医療で用いることがなかった余剰胚から作製するため、倫理的な問題をはらんだことが大きい」に訂正いたしました。