ILO(国際労働機関)によれば、労働に起因するケガや疾病が原因で亡くなる人の数は世界中で毎年およそ280万人にのぼるという。その内訳をみると、事故による死亡者が約38万人に対し、疾病による死亡者は約240万人と85%を占める。この背景には、企業が安全対策にかけるリソースの多くを事故対策に割く一方で、疾病対策にはあまり向けてこなかったという実態がある。

 そこで、ILOの外局であるISSA(国際社会保障協会)が2014年に発表し、3年後の2017年にシンガポール政府が国家の政策として取り上げることで世界中に広まり始めたのが、グローバルキャンペーン「ビジョン・ゼロ」である。

 ビジョン・ゼロは、あらゆる産業の職場や労働現場を対象に、事故や疾病、職業病などを未然に防ぐことによって従業員の安全・健康・幸福の向上を目指す活動。その源流は、日本の中央労働災害防止協会が1973年から推進する「ゼロ災害全員参加運動」、いわゆる「ゼロ災運動」とされる。日本企業の海外進出などに伴い、ゼロ災運動が世界に浸透。その中で、ビジョン・ゼロが生まれた。

Vision Zeroの考え方。安全(Safety)だけではなく、健康(Health)と幸福(Wellbeing)を含めて統合的に実現する(出所:ISSA)

 ビジョン・ゼロには、大きく二つのアプローチがある。一つは、経営者自身が安全と健康の重要性を認識し、それを高めるべく自らリーダーシップを発揮していくアプローチ。これにより、企業内のさまざまな部門が安全・健康の向上を目指して積極的にコミュニケーションを図り、安全文化を醸成していく。

 もう一つは、企業にとって重要な資産である従業員の安全・健康を徹底して守るアプローチ。これは、従業員のモチベーション、働き方、製品の品質、企業の評判、顧客満足、さらには企業利益に直結する。ある国際的な研究によれば、安全と健康への投資は、その2倍以上の企業利益を生むことが証明されている。