医療技術評価(Health Technology Assessment:HTA)とは、医療技術の使用にかかるコストと、そこから生み出される健康上のメリットを評価し、保険医療にかけられるコストを決定していく科学的プロセスを指す。そのゴールは、医療システムの効率を高めることだ(関連記事)。医療技術には、医薬品や医療機器のほか、医療者によって提供される手技なども含まれる。

 我が国では、2016年から13品目の薬剤と医療機器の保険適用価格の調整に試行的に実施されてきた。対象になったのは、C型肝炎ウイルス治療薬や免疫チェックポイント阻害薬に加え、循環器関連の医療機器など高額な医療技術だ(表1)。

表1●HTAの試行的導入の対象とされた13品目(出所:中央社会保険医療協議会薬価専門部会[140回]資料)

 具体的には、QOLの保たれた寿命(QALY)を1年の延ばすためにかかるコストを算出して、それが500万円を超えるか否かで、それ以上かかるならば、薬価を段階的に引き下げるなどの評価を行うというもの。実際、2018年の薬価改定において、この評価の結果が価格調整に使われた。2019年度から本格的に適用範囲が広げられることとなった。

 費用対効果の考え方を取り入れることで、治療にかかる保険適用の方向性は大きく変わり得る。例えば、同じくQALYを1年間延長する治療があっても、それにかかるコストが10万円なのか、1000万円かで、その医療技術に対する費用対効果における評価は変わる。後者であればそのままのコストで保険適用を保つことは難しいと捉えられる可能性があるわけだ。

 今後、「費用対効果」を軸に、日本の医療保険の仕組みは大きく変わっていくことになる。


日本では2012年から議論が始まる

 日本でも以前から医療技術を評価する仕組みはあった。これまでの医療技術の評価との違いは、「費用対効果」を評価の中に積極的に取り入れていくという点だ。

 日本の保険医療の方針を決めている厚生労働省の中央社会保険医療審議会(中医協)の組織から見ても、同じ医療技術の評価であるとはいえ、昔から行われてきたものと、HTAは分けて捉えられていたことが分かる。というのも、下部組織である分科会の中でも、「医療技術評価分科会」と「費用対効果評価分科会」は別の会議として設定されているからだ。前者は従来の保険適用の枠組みの中で医療技術を評価するものであるのに対して、2012年から開催されている後者は、全く新しい仕組みとしてのHTAの形を議論するのが目的となっている。

 費用対効果評価分科会で最初に示された論点は、大きく2つに分かれている。一つは、医療保険制度にいかにHTAを取り入れていくか。この観点においては、評価結果の活用方法、評価対象とする医療技術の考え方、評価の実施体制が検討対象とされた。もう一つの大きな論点は、技術的にどのように評価するかという観点だ。ここについては、評価手法やデータの取り扱いについてが検討対象とされている。

 分科会の議論を追うと、日本のHTAは、海外の制度を参考として検討が進められてきたことが分かる。医療技術の費用対効果を評価する動きは海外で先行していたからだ。特に有名なのは、英国で1999年に設立されたNICE(英国国立医療技術評価機構)。日本の議論着手に遡ること10年以上前から本格的に運用をスタートしていることになる。

 英国では、国が指定した医療技術について、QALYを指標として効果を評価し、医療技術についての推奨を行うものだ。QALYが1年間延長するために2万~3万ポンド(日本円で250万~350万円ほど)のコストにとどまるならば、医療技術は経済性に優れると判断される。英国ではNICEで推奨されない医療技術は、事実上使用するのが難しくなる。しかも、日本であれば、例えば、メーカーが医薬品の承認申請をして承認された後に、薬価を厚労省が設定すると、そのまま保険適用となるが、英国では、薬価が設定されてもNICEが推奨しなければ保険適用にならない。強い権限を持つのが特徴で、それだけ費用対効果が重要視されているといえる。

 このほか、ドイツ、フランス、オーストラリアが先行してHTAを制度化してきた。フランスでは2018年に、認知症の薬がHTAの結果として、保険適用から除外されたことが大きく注目された。
 
 冒頭に述べた通り、日本では2019年度から、HTAによる保険適用価格の調整の適用範囲が拡大する。ただ現状では、その運用や対象品目をめぐって議論が続いており、日本版のHTAの構築に向けた動きはこれからが本番だ。


(タイトル部のImage:Goss Vitalij -stock.adobe.com)