インターネットやモバイル端末、ウエアラブルデバイスなどのICT(情報通信技術)を活用して、被験者が医療従事者と対面したり通院しなくても進められる臨床試験(virtual clinical trial)のこと。新規の医薬品や治療機器の製造販売承認を前提に、その効果や安全性を評価するための治験として行う場合、バーチャル治験、サイトレス治験とも呼ばれる。

 日本ではまだ行われていないが、海外では広がりを見せる。30万件以上掲載される臨床試験のデータベース「clinicaltrials.gov」で、「サイトレストライアル(Site Less Trial:在宅で実施する試験)」を入力して検索すると、3000以上がヒットするほど(関連記事)。「Virtual」「Web-based」など他の関連語での検索ヒット数も含めれば、さらに多くのバーチャル臨床試験が世界中で行われているとみられる。

臨床試験のハードルを大幅に下げる

 従来の臨床試験では、まず参加を希望する被験者に対して医療従事者が対面で説明し、同意を得た上で試験に組み入れる。その後、医療施設に来院してもらい、対面で診察、検査、被験薬の受け渡しを行う。これに対し、オンラインでの診察、ウエアラブルデバイスやモバイル端末を使った測定・データ送信、ePRO(電子的患者報告アウトカム)への入力、被験薬の郵送などによって、医療従事者との対面や通院を不要にするのが、バーチャル臨床試験となる。

 何よりのメリットは、治験施設周辺に限らず幅広い地域で数多くの被験者を集められることだ。医療従事者との対面や医療施設への通院が頻繁になるほど、患者にかかる負担は大きい。バーチャル臨床試験では、こうした物理的・心理的なハードルを大幅に下げることで、試験に参加しやすくする。

 日本でも、若年人口が減り高齢化が進む中で、多様な医薬品の治験を行うための被験者を募ることは課題になりつつある。患者をうまく集めるためにはバーチャル臨床試験が重要な手段として注目されている。

 

テクノロジーの進化が後押し

 バーチャル臨床試験では、統括する単一施設で実施できたり、患者に直接対応する人件費なども圧縮できたりするなど、費用対効果が高くなるのも大きい。また、被験者がストレスがかかる慣れない環境で検査を受けるよりも現実に近い実態に即したデータを取りやすくなる。各種の機器を使えば、データ収集も自動化でき、原資料と症例報告書の照合などの作業(source data verification:SDV)の迅速化や削減も図れるので、医薬品開発期間が短くなるというのも利点だ。

 一方で、デメリットとして、被験者・家族との信頼関係構築の難しさ、デジタルのリテラシー、高齢者の参加の難しさ、データのセキュリティー上の懸念などがある。

 このようなバーチャル臨床試験が可能になったのは、テクノロジーの進化が大きい。管理システムやツール、AI(人工知能)などのソフトウエア、ウエアラブルデバイス、パッチなどのIoT(モノのインターネット)デバイスが登場している。

 例えば、アップルは「ResearchKit(リサーチキット)」という臨床研究用アプリを作成するためのオープンソースフレームワークを提供。無料で臨床試験の実施に必要なアプリを作成できるようにしている。こうしたアプリを使えば、医療従事者と対面しなくても同意書を取ったり、心拍数や歩数などの測定データを、アプリを通して取得したりする仕組みを容易に準備できる。バーチャル臨床試験にもそのまま応用可能だ。

 オンライン診療の仕組みで臨床試験を行うことが、日本でも今後出てくる可能性はある。ウェブで100%完結するところまでいかなくとも、最初の説明と同意、組み入れまでは対面で行うようなハイブリッド型も想定されている。


(タイトル部のImage:Goss Vitalij -stock.adobe.com)