医師と患者が、医学情報のほか、価値観や生活の事など個人的・社会的な情報についても共有した上で治療方針を話し合い、その最終決定を医師に任せるのではなく患者が共に行うプロセスのこと。日本語訳は「共同意思決定」。

治療成績の向上、医療費の減少にも寄与

 群馬大学大学院医学系研究科 医療の質・安全学講座教授の小松康宏氏によると、治療方針に関する意思決定の方法は、従来3段階で進化してきた(関連記事:「患者参加」は医療現場を変えるブロックバスター)。過去から振り返ると、「パターナリズム・モデル」(paternalism model)、「インフォームド・ディシジョン・モデル」(informed decision model)、「シェアード・ディシジョン・メイキング」(shared decision making)の3段階となる。医師から患者にどのような情報が提供されるのか、誰が検討や最終決定に加わるのかが時代とともに変化してきた。

 古典的なパターナリズム・モデルにおいては、医師から患者に伝えられるのは「医学情報」で、検討するのは「医師」、最終決定は「医師」となってきた。患者には、検討や最終決定の余地はなく、ほとんど受け身の状態になった。この場合、検討や最終決定に患者やその家族が関与せず、医師に言われるがままに医療を行い、患者らの価値観や生活があまり踏まえられないため結果に対して患者や家族には不満が残ったり、治療後の生活に支障を来したりしやすい側面があった。

 その後、インフォームド・ディシジョン・モデルが登場して、検討の場に患者や家族が加えられ医師から情報が与えられた上で、最終決定を患者を行うという形が取られるようになった。患者は主体的に医療の選択に関わることになったが、専門的な情報を患者が理解するのは困難であることもあり、実際は無理であるにもかかわらず、最終決定が患者に丸投げされてしまっている側面もあった。

 これまでの反省を踏まえて行き着いた先にあるのが、シェアード・ディシジョン・メイキングとなる。医療者は、医学的情報と助言を伝え、患者は価値観や生活などの個人的、社会的な情報を伝え、双方向的な話し合いを行う。その上で、検討は医師だけ、患者だけで行うのではなく、医師と患者や家族が一緒に行う。さらに、最終決定も双方が参加して行う形に発展した。

 シェアード・ディシジョン・メイキングを進めることで、患者にとっては、健康ばかりではなく生きる幸福感を含めてより良い生き方「ウェルビーイング」(well-being)を可能にすると考えられている。また、治療方針の決定などへ患者の参加が進むことで、患者の満足度が高まるほか、患者や家族のセルフマネジメントがより改善し、医療によるQOL(生活の質)や治療成績も向上。不要な入院や救急外来受診の減少、入院期間の短縮、医療費の減少にもつながるという。


患者参加の土台が整う

 過去の論文を振り返ると、医療への患者参加が進んだ背景には、医療の効果が臨床研究に基づいてはっきりと示されるようになったこともある。

 1970〜80年代以前にパターナリズムが主流だった背景には根拠となる臨床研究の数が限られ、権威的な医師の経験に頼るしかない事情もあった。日本では大学を中心とした医局制度の中で教授を核に医療の方針が決められてきた。その後、根拠となる臨床研究が次々と行われるようになるにつれて状況に変化が見られた。

 こうした中で、1990年代、臨床研究の結果によって医療の方針を決める「エビデンスに基づく医療」(evidence-based medicine:EBM)が注目されるようになった。エビデンスをまとめたガイドラインも作成され、医師ばかりではなく患者も医療情報を得やすくなり、患者参加の土台が築かれていった。こうしてインフォームド・コンセントやシェアード・ディシジョン・メイキングといった考え方が広く受け入れられるようになる。医学情報では、医療のメリットばかりではなく、デメリットについても伝える。さらに、医師と患者との間の情報共有は価値観や生活など個人的、社会的な情報にも及んだ。

 海外では、シェアード・ディシジョン・メイキングをさらに実のあるものにすべく研究が進む。現状では、医師と患者の間の共同意思決定の範囲が短期的なものにとどまっていたり、エビデンスの問題に終始していたりするなどの課題もあり、より長期的な視点を重視したり、個人的、社会的な問題まで情報共有を進める必要性があるとの指摘がなされている。医師を含めた専門家が患者をサポートして、患者の力になるという考え方がカギになりそうだ。


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