国際連合(国連)の関連援助機関(UNICEFなど)が、新興国や発展途上国への国際的な支援のために必要な物資やサービスを世界各国から調達すること。国際的なインパクトがあり、物資やサービスを提供する国の企業にとっては世界的な事業展開の足がかりになることから注目されるようになった。

医薬品やワクチンばかりではない

 新興国の経済成長が進む中で国際連合による調達額は増加し、2018年には188億ドル(約2兆円)の規模になっている。この中には、およそ日本円で3000億円を超える医薬品、避妊薬、ワクチンが含まれるほか、医療機器などの医薬品以外の製品やサービス、さらには、デジタル医療機器にも関心を持たれるようになっている。ヘルスケア分野の調達の存在感は大きい。

 国連調達は国際ビジネス競争の舞台でもある。国連の統計によると、取り扱いの金額が最も多いのは米国で、それに続くのは、インド。さらに、アラブ首長国連邦や欧州、アフリカの企業が続く。その額は、米国が約1800億円、インドが約1200億円に上る。韓国や中国のほか、日本も参入するがそれぞれ20億円程度。上位の国との差は大きい。

 日本政府も手をこまぬいているわけではない。外務省のほか、内閣官房、厚生労働省が、医療や保健分野の国連調達を後押しする。「国連でのビジネスへ日本の参入のチャンスが開かれており、国連側も日本企業に関心を持っている」と指摘。厚労省は国連調達を視野に入れ、「医療国際展開推進等事業の拡充」(図1)という枠組みの中で、国連調達の前提となる世界保健機関(WHO)の事前認証を取得する事業、WHOの「医療機器要覧」への掲載を進める事業に予算をつけた。

図1●医療国際展開推進等事業のイメージ (出所:首相官邸ホームページ 第4回 開発途上国の感染症対策に係る官民連携会議[2017年5月11日]資料)

 医療機器要覧では、これまで日本企業からも結核予防のBCGワクチンのほか、寄生虫の治療薬やHIV(ヒト免疫不全ウイルス)の検査薬、耳赤外線体温計、滅菌装置などが掲載されてきた。国際調達で必要とされる可能性がある製品の幅は広い。

SDGsの動きとも符号

 国連調達に対して製品やサービスを供給するために、WHO事前認証を受けることは国際展開を進める上で価値が大きいといえるだろう。企業にとっては新興国での薬事承認のハードルをうまく越え、自社製品の信頼を得ることにもなる。国連調達を突破口に、その先には同様な国際公共機関への製品などの供給にもつなげられる可能性も出てくる。新興国に深く事業の根を張ることができれば、2兆円どころではない大きな市場にアプローチできる。

 視点を変えると、国連調達が注目される背景には、新興国の経済発展がまずある。2000年代から、米国企業が新興国での製品開発や生産を本格的に開始。それまでは先進国の中で開発した製品やサービスを新興国に提供する形を取ったが、新興国のニーズに合わせて、独自の製品やサービスを作る動きへと変わっていた。先進国が新興国へと事業を広げていく中で、国連調達は存在を増したところがあるだろう。

 さらには、先進国や新興国といった枠組みを越えた普遍的な価値を持つ製品やサービスが求められる。地球温暖化や環境破壊、労働搾取などの国際問題も表面化する中で、SDGs(持続可能な開発目標)の動きが国連で提唱され、持続的可能性へと発想転換が起こっている。SDGsの中では、ヘルスケアの領域でも、「ユニバーサルヘルスカバレッジ(UHC)」という考え方が重視される。「全ての人が適切な予防、治療、リハビリ等の保険医療サービスを、支払い可能な費用で受けられる状態」を目指すものだ。

 新興国で生まれた製品やサービスが先進国に逆輸入され、革新的な製品やサービスとして受け入れられるリバースイノベーションの動きも出ている。新興国への関わりを深くすることは、単純にマーケットを広げるだけではなく、企業全体の価値を引き上げる意味合いも帯びる。

 新しい形での事業の国際展開が求められる中、国連調達への参入はますます注目されることになりそうだ。


(タイトル部のImage:Goss Vitalij -stock.adobe.com)