体内の病巣をピンポイントで狙うための薬の「運び屋」となる、ナノサイズ(直径約20〜100nm[ナノメートル]、1nm=0.001µm)の微小な物質を指す。医薬や高分子化学などの技術を用い、あたかも機械のように機能することからこの名で呼ばれるようになっている。最近では、がんや脳神経疾患などの治療分野で実用化が進もうとしている。

少ない投与量で高い治療効果を

 このように薬剤を狙った場所に届ける考え方自体は古くから存在するものだ。ナノマシンのような技術が求められる理由は大きく2つある。

 一つは、薬剤の効果を出していきたい場所は病巣であり、薬剤を全身に分布させるのではなく、病巣に集中させる方が望ましいとの考え方だ。薬剤を集中させることで、同じ薬剤を使う場合でもより効果を高められることになる。併せて、薬剤の投与量を少なくして、投与頻度を少なくできるメリットもある。

 もう一つの理由としては、薬剤には副作用もあるため、薬剤が正常な組織・機能にまで影響を及ぼさないようにしたいという考えがある。抗がん剤を例にとると分かりやすい。抗がん剤の多くは正常細胞の増殖にも影響し、脱毛や消化器症状などの有害事象を起こす。病巣だけを狙えば、正常な組織への悪影響を減らすことが可能となる。

 薬剤を必要な場所に届ける技術(ドラッグ・デリバリー・システム:DDS)の歴史を振り返ると、それは薬の「運び屋」の進化の道程と一致する。1950年代の関連研究を見てみると、皮膚の塗り薬の効果を保つ研究の中で、狙った場所に薬をとどめるために運び屋として基剤が検討されていた。同様な研究は今でも続いているが、初期の頃から薬剤をターゲットに集中させようとしていた動きを見てとれる。

 1960年代以降は、インプラントや医療機器などを使い、薬剤の効果を患部に集中させる方法が次々と開発されるようになった。1966年にはSF映画の「ミクロの決死圏」で、究極の姿としてミクロサイズになった医療チームが病気を治す様が描かれ、1971年には、DDSという言葉が論文のタイトルに初めて掲げられた。この頃に行われていた研究は、例えば、コンタクトレンズに薬剤を仕込み、流れて失われやすい目薬の効果を持続させるもの。今では当たり前のように使われている、飲み込んだときに腸で溶けるカプセルや皮膚に貼るパッチも一連の技術開発で生まれてきたものだ。

 1980年代には、抗がん剤を計画通りに投与する埋め込み型の医療機器が人を対象として試験されている。1990年代以降は、心臓血管領域で、筒状の金属の網(ステント)に血管内膜の増殖を防ぐ薬剤を塗布した「薬剤溶出ステント」を、狭心症患者の冠動脈に挿入するインターベンション治療が一般化した。