病気を引き起こす原因やリスクファクターを個々人が自覚して取り除く1次予防と並行して、発症やリスクファクターにつながる社会的、経済的、文化的な環境要因に着目し、それらを改善することで集団における病気の発生自体を大きく減らそうという考え方。1次予防よりもさらに前段階に当たることから「0(ゼロ)次」と呼ばれる。

1次・2次予防では健康格差が課題

 0次予防は、もともと循環器疾患の予防についての研究から生まれた発想だ。米ミネソタ大学のヘンリー・ブラックバーン氏が1970年代に、動物性脂肪の多い食習慣が一般的ではない中国や日本において、喫煙や高血圧のようなリスク要因が存在している場合にも心血管疾患が起こりづらいと報告。病気の予防にとっては、こうした個人のリスクファクターばかりではなく、社会的、文化的な要因も重要であるとの考え方を示した。

 ブラックバーン氏の研究もあり、1982年、世界保健機関(WHO)による循環器疾患関連の報告で「primordial prevention」、直訳すると根本的な予防の考え方が提唱された。その後、WHOは1998年に健康の社会的決定要因(Social Determinants of Health:SDH)として、「社会格差」「ストレス」「幼少期」「社会的排除」「労働」「失業」「社会的支援」「薬物依存」「食品」「交通」という健康を決定する10の社会的決定要因を公表。健康につながる社会や環境への対処は年々重要視されるようになった。

 さらにWHOは、2006年に発行した『WHOの標準疫学 第2版』の中で改めて「primordial prevention」に言及し、日本語版で「ゼロ次予防」と訳されたことから、現在に至るまで訳語として定着するようになっている。

 0次予防よりも一般的なのは1次予防や2次予防だろう。1次予防は病気固有の原因やリスクファクターを減らすことで病気の発生を防ぐもの。2次予防は病気の初期段階において罹患期間を短縮し罹患率を減らそうというものを指す。さらに近年では、病気の後期で合併症の数や影響を減らす3次予防も注目されている。

 1次予防や2次予防の重要性が強調されている一方で、その課題として指摘されているのは、これらの予防の取り組みを強化しても、健康格差の問題が解決されないまま残ってしまう可能性があることだ。これらの予防では、個人が健康教育や検診を受け自覚、努力して健康を守るもので、高所得、高学歴の層が対処しやすい面があった。

 こうした課題に対して、0次予防においては、地域や社会に暮らす人の意識的な個人の努力を不要にするのがポイントになる。無意識のうちに健康に望ましい行動を取れたり、健康につながる環境に身を置いたりする社会的、経済的、文化的な環境づくりを進めるものだからだ。