腸内に棲息している細菌の集まりのこと。「叢」は草むらの意味で、多種類の植物が固まって存在する草むらのように異なる細菌が集まっている状態を表している。細菌ばかりではなく、真菌やウイルスなどの微生物の集まりも含めて腸内微生物叢、腸内フローラとして表されることもある。

さまざまな病気との関係が判明

 腸内細菌叢が注目されるようになったのは、整腸効果に加えて、メタボリックシンドロームやがん、糖尿病、精神疾患などとの関連が研究から続々と明らかになったため。

 元々20世紀初頭に、ロシアでノーベル賞を受賞したメチニコフがブルガリアの人々の寿命が長い背景に、地域で食べられている発酵乳があると報告し、ヨーグルト飲用の効果が知られるようになった。1989年に、英国ロイ・フラーが、宿主の微生物バランスを改善し、宿主の利益につながる生きた微生物をプロバイオティクスと命名している。

 さらに、2010年代に入り、腸内細菌のバランスが変化することで、腸内の感染症のほか、喘息などのアレルギー疾患や肥満症などの病気のリスクが高まることが研究から証明されるようになる。

 2014年に、「クロストリジウム・ディフィシル感染症」に対して、健康な人の糞便を感染者の腸の中に移植する治療が効果を示すと報告された。この感染症は、抗菌薬の投与による腸内細菌の変化によって起こり、院内感染の問題になっていた。治療も難しいため、有効な治療がかねて求められていた。それが、糞便を人から移植するという従来ない発想からの治療として大きく注目されることになった。便移植療法は科学的に有効性が確認されたことで、日本を含めて世界的に感染症治療に対して行われるようになった。

 さらに、同じ2014年には、人工甘味料を多く摂取すると、腸内細菌のバランスを変えてしまい、かえって糖尿病のリスクを増やしてしまうという研究が著名科学誌の英『Nature』に掲載されたことも大きく注目された。人工甘味料は摂取する糖を減らす手段として、むしろ肥満や糖尿病を避けるのに有益と捉えられていた。ところが、そう単純ではない可能性を示したことになった。代謝性疾患と腸内細菌叢の関係についての理解を進めるきっかけになり、人工甘味料の利用に一石を投じた。

 こうして腸内細菌と病気や健康との関連を示す論文はこのほかにも2010年代以降、多数報告されるようになった。2015年には、乳幼児期の腸内細菌の状態によって小児喘息のリスクが変わるという研究が発表された。腸内細菌とアレルギーなど自己免疫性疾患との間に関係があるとする報告は、このほかにもアトピー性皮膚炎やリウマチ、1型糖尿病との関係としても報告されるようになっている。さらに、2016年には、子どもに対して乳酸菌を摂取させることで社会性が増えるとする実験結果が著名生物学誌の米『Cell』誌に報告されたほか、自閉症など精神的な疾患との関連についても研究が進んでいる。

 この10月には、帝王切開で産まれた新生児に、母親の腸内細菌叢を移植する研究が行われて、腸内細菌叢が健全な方向に変わることが報告されている。この背景には、帝王切開で産まれた子どもは成長する過程で、炎症性腸疾患やリウマチ、1型糖尿病を発症しやすいと知られ、腸内細菌叢が経膣出産の場合とは異なってくるためだと考えられたことがあった。今後、こうした腸内細菌叢の移植が産科の領域でも注目される可能性はある。