デバイスやコンピューターを用いて、人間に元来備わっている身体機能や認知機能、あるいはそれぞれの機能が低下した状態から能力を改善したり、補助したり、強化したりして、できなかった活動を可能にする技術。ヘルスケア領域を含め研究開発、実用化が進んでいる。

2010年前後からサイボーグの発想が現実に

 1960年代からSF(サイエンスフィクション)の世界で人間の能力をロボットやコンピューターで強化し、通常では考えられない能力を可能にする人造人間、サイボーグの考え方は存在した。こうした機械の力で人間の能力を非現実的な水準に高める発想は人間拡張の極端な例と言える。

 人間拡張と言わないまでも、デバイスやコンピューターの発達で、人間の不自由を解消する研究開発は幅広い分野で進んだが、明示的に人間拡張という発想から現実の製品化が進められたのは2010年前後のロボット開発の分野だった。ウエアラブルロボットの実用化が大きな転機だ。

 一つはリハビリテーションの領域。歩けなくなった人にウエアラブルロボットを着用してもらい、それまでできない歩行を可能にするような研究が成功するようになった。あるいは手を動かせなくなった人が手を使えるようになる事例が出始めた。このほか、介護の現場でも、介助者が人を抱えて抱き上げるなど重労働が強いられていたが、それをロボットの力で、身体的な負担を軽くできるようになった。こうした応用領域の広がりが出たことで、人間拡張の発想が一般化していくようになった。

 こうした人間拡張を可能とするロボット開発では、単純に動く機械を作れば済むわけではない。電気的なエネルギーを効率的に動力に変え、体の動きを検知して身体の動きに対応してロボットを動かす制御技術も要る。総合的な研究開発が実を結んだものだった。日本ではCYBERDYNEが製品化して認知度を高めることになった。

 2010年代には、身体機能に対する人間拡張の考え方が、認知能力にも広がるようになった。一つは人工知能の応用においてで、AI技術である機械学習やディープラーニングといった技術の応用が進んだのが大きい。AIを自律的に利用するばかりではなく、人とAIが協働するような形で、AIの機能を人の活動に生かす考え方が広がった。これは人の認知能力をAIによって改善、補助、強化しているとも言え、これは人間拡張の考え方と通じるものでもあり、実際に、AIの応用において人間拡張という言葉が使われる場面も出てくるようになった。

 同様に、仮想現実(VR)や拡張現実(AR)も人間拡張という文脈で研究開発されることも出ている。例えば、自動車の運転中に、人が空間中に注意すべき障害物を拡張現実で分かりやすく表示したり、手術中に術野の腫瘍組織を拡張現実で際立たせたりするような用途はいずれもコンピューターによって人間の認知機能を引き上げるものとなる。人間拡張における拡張現実の応用例と考えられる。