電子処方箋とは、紙の処方箋を電子化したもの。医師が専用サーバーに処方箋の情報を登録し、薬局の薬剤師が患者の本人確認をした上で、その処方情報に基づき、調剤や服薬指導を行う。

 現行の一般的なやり方は、医療機関で医師が紙の処方箋を作成・交付し、患者が調剤薬局に持ち込んで、薬を出してもらう仕組み。患者から処方箋を受け取った薬局では処方箋の内容を別途、自施設のレセプトコンピューターなどに入力する必要がある。

 電子処方箋により、医療機関は処方箋の印刷に要するコストがかからず、薬局は処方情報を入力する業務を省力化できたり、誤入力を防止できたりする。また、処方箋の偽造や再利用も防げる。さらに、医療機関と薬局間での情報共有が進むことで、薬局から医療機関への疑義照会の結果の伝達や、先発医薬品から後発医薬品に調剤を変更した際の伝達がより容易になるなどのメリットがある。

 電子処方箋の発行そのものは2016年4月に解禁された。だが、一部の地域で実証事業が行われたぐらいで、いまだ試行レベルにとどまっている。その理由として、そもそも電子処方箋の専用サーバー設置の負担が大きく、コストがかさむほか、当初、厚労省が定めたガイドラインに基づく運用ルールに課題があった点が挙げられる。

 ガイドラインでは、患者が電子処方箋を希望した場合、医療機関は診察のたびに、紙に印刷した「電子処方せん引換証」を発行する必要があり、患者はそれと引き換えに薬局で薬を受け取るよう求めていた。医療機関や薬局の業務効率化が見込めず、患者にしてみれば紙の処方箋と手間は何ら変わりない。

 もっとも、その点は改められ、昨年4月に改定されたガイドラインの第2版では、引換証の発行が不要になった。

 それからほどなくして、政府は昨年7月に閣議決定した「骨太の方針2020」で、国の電子処方箋化計画を1年前倒しにすることを表明した。全国での本格的な運用開始を2023年としていたが、2022年の夏に改めたのだ。

 前倒ししたのは、電子処方箋発行に向けたシステム整備やコスト負担のめどが立ったため。

 わが国の医療・介護のデジタル化を進める観点から、厚労省は今年3月よりマイナンバーカードを健康保険証として使う「オンライン資格確認等システム」の試行運用を開始。これは、マイナンバーカードを使って患者がどの医療保険に加入しているなどの資格確認ができるというもの。患者の健診や服薬、手術歴などに関する情報も連動させる(関連記事:健康保険証として使えるマイナカード、 普及のカギは薬局薬剤師?)。

 厚労省は、電子処方箋の全国展開に当たって、このオンライン資格確認等システムを基盤として活用することとした。既存インフラの活用で、電子処方箋の専用サーバー設置の負担等を大幅に軽減できるからだ。

 ただ、肝心のオンライン資格確認等システムは2021年3月下旬に開始予定だったものの、システムの安定性確保やデータの正確性担保の点で問題が見つかり、半年程度の延期となった。厚労省は、遅くとも今年10月までには、本格運用を始めたい考えだ。

 先延ばしの影響は電子処方箋にも及ぶとみられ、政府目標の「2022年夏」が遅れる可能性がある。

 さて、この先、電子処方箋の普及が進めば、薬局の業務のあり方が大きく変わることが予想される。電子処方箋では紙の受け渡しが不要なため、患者がわざわざ薬局に足を運ばなくなるケースも増加。電子処方箋の交付に当たり、患者にはスマートフォンなど個人のモバイルデバイスにアクセスコードが付与される予定で、例えば患者は今までのように処方箋を手に医療機関を出てその足で最も近い薬局に行くのではなく、スマホアプリなどからお気に入りの薬局にデータを送信して、あとは、オンラインで服薬指導を受けて薬の配送を待つ、といったスタイルが進むことなどが考えられる。医療機関から近いという立地ではなく、薬局の機能・サービス内容が重視される格好だ。

 そうした状況を前に、個々の薬局はどんな手を打つのか、早めの対策を講じることが欠かせない。

(タイトル部のImage:Goss Vitalij -stock.adobe.com)