1入院当たり包括支払い方式とは、疾病ごとに、治療内容や入院日数にかかわらず、あらかじめ決められた一定額の報酬を支払うというもの。医療機関は、過剰な治療を施したり入院期間が必要以上に長くなったりするとそれだけコストがかかり、収益をあげられなくなる。

 同方式をいち早く取り入れたのは米国。DRG/PPSと呼ばれる制度を、1983年に一部の州で先行導入し、1986年には全米展開した。DRG/PPSは、Diagnosis Related Group/Prospective Payment Systemの略。DRGは疾病分類の一つで、急性期入院医療分野における様々な疾病を、治療に費やした医療資源(具体的には、マンパワー量、医薬品や医療材料の量、入院日数、コストなど)の必要度に応じて、共通性、同質性という観点から診断群グループに分けたものを指す。疾病分類であるDRG を支払い方式であるPPS(包括払い)に活用したのが、DRG/ PPSに当たる。

 米国の取り組みは世界的にも大きく注目され、先進各国は同様にDRG/PPSを導入した。

 一方、現在、日本の急性期入院医療で主流を占めるのは、DRG/PPSではなく、DPC/PDPSと呼ばれる、わが国独自の支払い方式だ。DPC/PDPS はDiagnosis Procedure Combination/Per-Diem Payment Systemの略で、診断群分類別1日当たり包括支払い制度を指す。DRG/PPS との大きな違いは、1入院当たりではなく、1日当たりの包括支払いになっている点である。なお、DPC/PDPSは単に「DPC制度」とも呼ばれる。

 DPCは日本が独自に開発した疾病分類で、入院期間中に医療資源を最も投入した「傷病名」と、入院期間中に提供される手術、処置、化学療法などの「診療行為」の組み合わせにより分類された患者群を指す。米国のDRGよりかなり詳細な分類で、その数は約2500分類に上る。DPCに1日当たりの包括払い方式を組み合わせたのがDPC/PDPSに当たる。

 DPC/PDPSは、閣議決定に基づき、2003年4月より82の特定機能病院を対象に導入され、段階的に対象病院が拡大。2020年4月1日時点で1757病院となった。

 日本が世界標準のDRG/PPSではなく、DPC/PDPSを取り入れた背景には、前者のデメリットが憂慮されたことが挙げられる。

 日本でもかつて1998年11月から、国立病院8病院と社会保険病院2病院の計10病院を対象に、診断群分類別の1入院当たりの包括支払い方式、いわゆる日本版DRG/PPSが試行実施された。DRG/PPS導入のメリットとしては、制度を適正に運用すれば、医療内容の質を担保しつつ、なおかつ過量及び、過剰サービスのインセンティブが抑制されるので、医療財政上も効果がある。ただ、デメリットとして、いわゆる粗診粗療を招く可能性がある。また、当時は同じ疾患であっても患者によって入院期間のばらつきが大きく、そのまま DRG/PPS を導入することが困難であった。

 こうした事情を総合判断して、厚生労働省は、わが国独自のDPC/PDPSを取り入れたのだった。

現行のDPC/PDPS 制度では医療財政効果が不十分!?

 もっとも、DPC/PDPS ではなく、1入院当たり包括支払い方式のDRG/PPSの拡大を図るべきという声は、経済界はもとより、政府内にも根強い。DPC/PDPSはDRG/PPSに比べると医療財政上のメリットが少ないからだ。

 DPC/PDPSは入院が長くなるほど段階的に報酬が減る設定となっている。それでも「1日当たり」の報酬のため、入院期間中に報酬は発生し続けるので、病床が空いているのであれば、入院期間を延ばした方が有利というインセンティブが働いてしまう(関連記事)

 最近でも、政府の経済財政諮問会議(諮問会議)や財務省の財政制度等審議会(財制審)で、「一入院当たりの包括払いを原則とする診療報酬への転換」(4月27日の諮問会議)や「DPC/PDPSの見直し」(5月21日の財制審)を求める意見書が取りまとめられたところだ。

 これを受け、厚労省は今後どう動くのか。

 実は、現行の診療報酬制度にもごく一部であるが、日本版DRG/PPSともみなせる報酬体系が既に導入されている。2014年度診療報酬改定では、水晶体再建術など一定程度治療法が標準化し、短期間で退院可能な手術・検査については、入院5日目までに行われたすべての医療行為を包括して支払う仕組み(短期滞在手術等基本料3)が新設されたのだ。以後、短期滞在手術等基本料3の対象は少しずつ拡大。とはいえ、その数は20項目にとどまる。

 今回、諮問会議や財制審から「一入院当たりの包括払いを原則とする診療報酬への転換」や「DPC/PDPSの見直し」の提言はあったものの、従来の流れを見る限り、次期2022年度診療報酬改定でも、1入院当たり包括払いについては、基本的に短期滞在手術等基本料3の対象拡大で終わるとみられる。ただし、官邸の強い意向が働くようなら、ある程度思い切った見直しが行われる可能性もなきにしもあらずだ。

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