老化細胞とは、細胞老化が進んで、もはや細胞分裂できない状態になっているにも関わらず、体中にとどまって「悪さ」をしている細胞のこと。老化細胞から出る物質が、がんなど加齢に伴う病気発症の一因になることが分かってきており、老化研究の注目テーマの1つとなっている。

 分裂を繰り返している私たちの体の細胞は、その過程で異常を感知するなどすると、分裂を辞める機能を備えている。分裂を停止した細胞は通常、自ら死んで壊れる(アポトーシス)か、免疫細胞に食べられて体内からなくなるが、それを免れて、体内に残るものがあり、これが老化細胞と呼ばれる。

 老化細胞は年をとるとたまりやすくなり、蓄積すると炎症のもとになる生理活性物質などが分泌されるSASP(サスプ:老化細胞関連分泌現象)が起きる。過度なSASPは、慢性炎症を引き起こし、周りの細胞の老化を加速させる。これが、がんをはじめとする加齢性疾患の発病を促すリスクとなり、関連する疾患として、動脈硬化、白内障、慢性閉塞性肺疾患、アルツハイマー型認知症なども挙げられている。

 ある米国の科学ジャーナリストは、老化細胞を「ゾンビ細胞」と表現している。周囲の細胞の老化を加速させて仲間を増やし、組織や臓器の機能低下を引き起こすゾンビのような細胞というわけだ。

 多様なアプローチが行われている老化細胞の研究にあって、特に注目度が高いのが、老化細胞除去薬(セノリティクス)の開発だ。これは、特定の老化細胞を除去することで、病気の発症や進行を抑える薬剤の開発を目指すもの。抗老化治療の切り札の1つと目されている。

 実装に向けた成果を伝える研究も増えている。例えば2021年1月、米科学誌『サイエンス』に発表された東京大学の中西真教授らのグループによるマウス実験では、老化細胞を体内から取り除くことに成功、これにより加齢現象、老年病、生活習慣病が改善したことが証明された。人間年齢で60~70歳ぐらいにあたるマウスの腎臓や肺の機能、握力などが、30~40歳くらいの状態に若返ったという。

 米国のメイヨー・クリニックの研究グループは、既にヒトの予備試験まで進んでいるようだ。さらなる研究が進めば将来、老化細胞を除去して臓器の若返りを図る時代が来るかもしれない。

 老化細胞は、蓄積の予防による健康増進など、予防医療でも期待されている。一般に予防のための臨床試験は難しいため、食品やサプリメントの活用などにも注目が集まる。

[参考文献]

1)『100年ライフのサイエンス』(日経BP)

(タイトル部のImage:Goss Vitalij -stock.adobe.com)