オープンダイアローグ(Open Dialogue:OD)とは、急性精神疾患に対する治療的対話手法のこと。新たな介入手法として注目を集めている。

 1980年代にフィンランドの西ラップランドの精神病院ケロプダス病院で開発され、発展してきた。統合失調症の他、うつ病、PTSDなどに取り入れられ、2021年5月にはWHO(世界保健機関)の地域精神保健サービスに関するガイダンス『人間中心の、権利に基づくアプローチの促進』において「グッドプラクティス」の1つとして紹介され、国際的にもお墨付きが与えられた。

 ODは「開かれた対話」を意味する。この「対話」は診察室で医師と患者が1対1で行う「会話」とは異なる。患者とその家族や友人、精神科医だけでなく臨床心理士や看護師といった関係者が1カ所に集まり、チームで繰り返し「対話」を重ねていく。この手法により多くの統合失調症患者が薬物治療や入院治療を受けることなく治癒していくという。

 ODにはいくつか重要な考え方がある。医師など治療側のチームは、対話を続けることを最も大切にし、患者の妄想や幻覚に対して「もう少し説明していただけますか?」と尋ねる。アドバイスや説得、議論はしない。診断はせず、治療計画も立てない。ただ対話を続けることにより、その副産物として不思議と治癒したり、解決したりということが起こるという。「ODによって患者は自分の話を聞いてもらえた、尊重してもらえたと感じることにより心を開く。治療側は治そう、という下心を捨てて対話のプロセスに没頭することが重要」と、筑波大学医学医療系保健医療学域社会精神保健学教授で精神科医の斎藤環教授は話す。

 治療チームは最低2人は必要で、複数名によるチームで構成される。これは、「二者関係という密室」を避けるためだ。二者関係では、同一化に向かう圧力が強く生じやすく、共依存関係になりやすい。一方、チームで対話を行うことは、場の圧迫感や依存関係からの解放となり、治療者も患者も、より自由に話せるようになる。

 斎藤教授は現在、勤務する大学病院やクリニックでODの治験を行い、我が国の精神医療での普及を目指す「オープンダイアローグ・ネットワーク・ジャパン(ODNJP)」の共同代表も務めている。ODを解説した翻訳書、専門書は異例と言える読まれ方をし、大学の研究者などのアカデミア、精神科医を含む多くの医療関係者が強い関心を向ける。ODNJPでは専門家向けのトレーニングコースを設けているが、毎年定員40名のところ2倍以上を上回る応募が集まっていることは、この手法に対する注目度や期待の高さを示している。

 ODは、統合失調症に対する治療的介入として開発されたが、引きこもり支援、うつ、双極性障害、認知症のBPSD(行動・心理症状=妄想、意欲低下、暴言、徘徊など)や発達障害(自閉症スペクトラム)にも応用可能とみられている。いずれも、自らの感情や言葉を思い込みだと否定されることが多い人たちで、ODによって「もっと聞かせてほしい」と言われる経験がもたらす安心感が症状の緩和や治癒に結びつくと考えられている。

 従来、精神医療で行われてきた認知行動療法や対人関係療法のような治療プログラムと異なり、その核となる部分を理解さえすれば、ガイドラインを読んだだけで初級者でもできる、という敷居の低さがあり、家庭内や職場における対話手法としても取り入れることができる。

 ODNJPのサイトでは、ODの手法を分かりやすく解説するガイドラインが無料公開されている。

[参考文献]

1) WHO.Guidance on community mental health services: Promoting person-centred and rights-based approaches.2021

2) オープンダイアローグ・ネットワークジャパン「対話実践のガイドラインウェブ版」

(タイトル部のImage:Goss Vitalij -stock.adobe.com)