ムーンショット型研究開発制度とは、内閣府の主導で進められている大型の科学技術プロジェクトのこと。ムーンショットは、かつて人類を月に送った米アポロ計画のように、困難だが実現すれば大きなインパクトが期待できる研究開発を指す。人々を魅了する野心的な目標(ムーンショット目標)を国が設定し、世界中の研究者の英知を集めながら挑戦的な研究開発を進めることで、日本発の破壊的イノベーションの創出と社会課題の解決を目指す。

 2018年度の補正予算で1000億円を計上して基金が創設された同制度は、2019年度の補正予算でも150億円を計上。目標に向けた研究開発プロジェクトは最長10年間支援される。各プロジェクトは、失敗も許容しながら革新的な成果の発掘・育成を目指すのが特徴で、スピンアウトも奨励される。長期的に達成すべきムーンショット目標として、次の9つが決められている。

目標1 2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現
目標2 2050年までに、超早期に疾患の予測・予防をすることができる社会を実現
目標3 2050年までに、AIとロボットの共進化により、自ら学習・行動し人と共生するロボットを実現
目標4 2050年までに、地球環境再生に向けた持続可能な資源循環を実現
目標5 2050年までに、未利用の生物機能等のフル活用により、地球規模でムリ・ムダのない持続的な食料供給産業を創出
目標6 2050年までに、経済・産業・安全保障を飛躍的に発展させる誤り耐性型汎用量子コンピュータを実現
目標7 2040年までに、主要な疾患を予防・克服し100歳まで健康不安なく人生を楽しむためのサステイナブルな医療・介護システムを実現
目標8 2050年までに、激甚化しつつある台風や豪雨を制御し極端風水害の脅威から解放された安全安心な社会を実現
目標9 2050年までに、こころの安らぎや活力を増大することで、精神的に豊かで躍動的な社会を実現

ヘルスケア目標のキーワードは「予測・予防」と「100歳人生」

 ヘルスケアのムーンショットである目標2と目標7について、少し詳しく見ていこう。目標2の「2050年までに、超早期に疾患の予測・予防をすることができる社会を実現」のターゲットとしては、「2050年までに、臓器間の包括的ネットワークの統合的解析を通じて疾患予測・未病評価システムを確立し、疾患の発症自体の抑制・予防を目指す」などが挙がっている。

 目標を達成するためのプロジェクトとして、合原一幸東京大学特別教授がPM(プロジェクト・マネジャー)を務める「複雑臓器制御系の数理的包括理解と超早期精密医療への挑戦」、大野茂男PM(横浜市立大学)らによる「生体内ネットワークの理解による難治性がん克服に向けた挑戦」、片桐秀樹PM(東北大学)らによる「恒常性の理解と制御による糖尿病および併発疾患の克服」などが採択されている。

 一方、目標7の「2040年までに、主要な疾患を予防・克服し100歳まで健康不安なく人生を楽しむためのサステイナブルな医療・介護システムを実現」のターゲットは、(1)「日常生活の中で自然と予防ができる社会の実現」、(2)「世界中のどこにいても必要な医療にアクセスできるメディカルネットワークの実現」、(3)「負荷を感じずにQOLの劇的な改善を実現(健康格差をなくすインクルージョン社会の実現)」となっている。

 プロジェクトには、阿部高明PM(東北大学)らによる「ミトコンドリア先制医療」、中西真PM(東京大学)らによる「炎症誘発細胞除去による100歳を目指した健康寿命延伸医療の実現」、柳沢正史(筑波大学)PMらによる「睡眠と冬眠:2つの『眠り』の解明と操作が拓く新世代医療の展開」などが並んでいる。

 また、2021年9月に決められた目標9の「2050年までに、こころの安らぎや活力を増大することで、精神的に豊かで躍動的な社会を実現」は、うつや孤独の克服など、メンタルヘルスに関する技術革新の期待も大きい。ヘルスケアの広がりを知るテーマとして注目したいムーンショットだ(関連記事:仏教×AIで悩みを相談する「ブッダボット」、その狙いを追った)。

(タイトル部のImage:Goss Vitalij -stock.adobe.com)