家族信託とは、認知症など不測の事態に備えるため、本人の判断能力があるうちに財産を信頼できる家族に託し、家族の判断で取引できるようにしておく財産管理の手法。認知症と診断されると、本人はもちろん、子供が同行しても原則として、預貯金を引き出したり、金融商品や不動産を売買したりできなくなる。こうした事態を回避するための制度で、認知症患者の拡大に伴い、注目度が高まっている。

 家族信託の契約は、財産を託す「委託者」、託された財産を管理する「受託者」、信託された財産から利益を受ける「受益者」からなる。認知症に備える財産管理では、高齢の親が委託者と受益者を兼ね、子供が受託者となるケースが多い。家族間の取り決めであっても、きちんと契約書を交わして実行するのが原則で、契約に当たっては弁護士や司法書士など、専門家に助言を受けるのが一般的だ。 

 認知症に備える財産管理法として成年後見制度もあるが、こちらは財産の保護が主な目的であるため、家族の要望が通ると限らない。目的を自由に設定でき、柔軟な財産管理ができるのが同信託のメリットで、例えば契約で「受益者が健やかに老後を過ごすため」とした場合、受託者はその目的に沿って財産を処分できる。介護費や医療費に充てることも可能だ。財産管理を目的とするため、本人に代わって介護施設の入居契約を結ぶことはできないなど決して万能でないものの、使い勝手の高い制度と言えるだろう。 

 家族信託の普及で課題となっている1つ目が、浸透度の問題だ。制度自体は以前からあるが、広く知られているとは言えない。2つ目は、コストの問題だ。信託契約を結ぶ際、専門家に支払う費用が高額になるケースもあり、敷居を高くしている可能性がある。3つ目として、家族信託に精通している専門家がそもそも多くないとの指摘もある。 

 日本の認知症患者は2025年に700万人を突破する見込みで、2035年に認知症患者が保有する有価証券総額は150兆円に達するとの試算もある。ファミトラ(東京都港区)など、家族信託の契約書作成などをデジタル化し、価格を下げ成長しているスタートアップも出ているが、さらなるサービスの拡充や新サービスの開発が期待される。 

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