患者の血液を使ったiPS創薬

 京都大学発のベンチャー企業である幹細胞&デバイス研究所(SCAD)は、遺伝性稀少疾患を対象に、患者の血液から作成したiPS細胞を使ったiPS創薬の事業を展開している。

 具体的には、まず、患者の血液由来のiPS細胞を、疾患の対象となる神経や筋肉に分化させ、細胞レベルで病態を再現した疾患モデル細胞を作成する。この疾患モデル細胞に薬の候補となる化合物を投与し、ドラッグリポジショニングを含めた創薬探索を行い、製薬企業へのライセンスアウトを経て、難病の治療法を確立することを目指している。

 日本では333種類の疾患が難病に指定されており、そのうちの95%には治療薬が存在しないとされる。患者数が少ないことや、検体採取が容易ではないことなどから、治療薬の研究開発が難しいことが理由である。

 SCADでは、遺伝性稀少疾患の患者の血液の遺伝子に、疾患情報が含まれていることに着目。これを利用して、患者の血液から作成したiPS細胞を使い、疾患モデル細胞を開発している。ヒトの血液を使った事業を行うに当たっては、内閣府と厚生労働省から国家戦略特別区域法に基づく特定認定と事業認定を受けた。そのため、同社は、患者の血液由来のiPS細胞から疾患モデル細胞を作り、創薬探索を行うまでの一連のプロセスの事業化を認められた日本で唯一の企業だという。

 現在は、シャルコー・マリー・トゥース病(CMT)を対象にした研究開発を京都府立医科大学と共同で進めている。CMTは、手足の筋肉が萎縮したり足の関節が変形したりする神経の疾患である。世界に約280万人の患者がいるとされ、遺伝性末梢神経障害では最も患者数が多いが、有効な治療法はまだ存在しない。

 同社では、これまでに5人の患者の血液からiPS細胞を作り、CMTの病態を再現した疾患モデル細胞を開発した。あくまでも研究段階だが、細胞レベルで効果の兆候が見られた物質を特定でき、今後は、治療法として活用できるかどうか、まずは非臨床での検討を進める予定だという。このほか、筋疾患や心筋疾患、神経筋接合部疾患についても研究開発を進めており、これらの領域におけるiPS創薬の事業を2022年内にも開始する予定だ。