仕掛学とは、人が思わず「ついやってみたくなる」ように仕向ける工夫(仕掛け)を研究する学問のこと。大阪大学大学院 経済学研究科 教授の松村真宏氏が提唱している。

 仕掛けとは、直接的な表現を使ったり強制的に行動を変容させたりするのではなく、魅力的な選択肢を与えることで、特定の行動に導くものである。例えば、駐輪場に白線が引いてあればそれに沿って自転車を止めたくなる、食堂の床に足跡のマークが描かれていればその上に並びたくなる──といった具合だ。

 こうした仕掛けは、ヘルスケア領域においても効果を発揮すると期待されている。

 松村氏によると、人が行動変容をするためには、「無関心期」「関心期」「準備期」「実行期」「維持期」という5つの段階があり、無関心な人に関心を持ってもらうことが最も難しいことだという。ヘルスケアに関しても、正攻法で行動変容を促せないときに、仕掛けを用いることが打開策となる可能性がある。

 これまでに松村氏が行った研究では、仕掛けによって、結果的に人を健康的な行動に導けることが示唆された。

 その一例が、2019年にJR西日本グループと共同で行ったJR大阪駅における共同実験である。この共同研究は、駅構内においてエスカレーターの利用客が多いということに着目したものだった。エスカレーター周辺が混雑しやすく問題発生の要因になっていたため、階段利用者を増やすことを目的とした。利用客に運動の機会を増やしてもらい、健康増進につなげたいという狙いもあったという。

 そこで、階段を使った「大阪環状線総選挙」を実施した。具体的には、「アフター5に行くならどっち?」という問いに対して、階段の右側に「天満派」、左側に「福島派」という選択肢のラッピングを施したのだ。

 その結果、花火大会の開催など仕掛け以外の影響を排除した場合、仕掛けを設置したことで、階段を利用した人が1日当たり1342人増加した。仕掛けを施すことが階段利用者の増加に効果があることが示唆されたというわけだ。直接「階段を使いましょう」といったメッセージを発信しなくても、階段をラッピングするという仕掛けだけで、人を健康的な行動に導くことができることが示唆された。

(タイトル部のImage:Goss Vitalij -stock.adobe.com)