脳腸相関(brain-gut interaction)とは、自律神経系やホルモンなどを介して、脳と腸が互いに影響を与え合うことをいう。中でも最近、脳の機能に腸内細菌叢が関与していることが分かってきており、注目を集めている。

 ヒトや動物の腸管内に棲息する細菌を腸内細菌といい、その細菌の集まりは腸内細菌叢(別称:腸内フローラ)と呼ばれる。ヒトの腸内細菌叢は 1000 種類以上、100兆〜1000 兆個の腸内細菌によって構成されている。菌の構成は、食習慣や生活習慣、民族性や年齢などにより一人ひとり異なる。

 この腸内細菌と脳の病気について研究が進み、2014年、科学雑誌「Nature」は、「脳腸相関は神経科学者をつかむ」というタイトルの論文を掲載した。同論文は、「プロバイオティック食品を販売する会社は以前から適正な腸内細菌を育てることが心の健康に良い影響をもたらすと主張してきたが、神経科学者たちはその意見には懐疑的であった。しかし、現在、腸内のマイクロバイオーム(常在の腸内細菌)が自閉症やうつ病などの疾患と関連していることを裏付ける確かな証拠が積み重ねられつつある」と述べている[1]。

 腸内細菌が脳に影響を及ぼす仕組みについては、「脳と消化管をつなぐ迷走神経が関与する」という研究や、「腸内細菌が産生する酢酸、酪酸などの短鎖脂肪酸に抗うつ作用がある」「腸内細菌は精神の安定に関わるセロトニンの前駆体を産生する」などの報告がある。また、「腸内細菌の1つである乳酸菌とビフィズス菌には、神経伝達物質であるγアミノ酪酸(GABA)を産生する働きがある」ことなども報告されている[2]。

 さらに2021年、北海道大学大学院先端生命科学研究院准教授の中村公則氏は、うつ病モデルのマウスを用いて、心理的ストレスによって小腸のパネト細胞の数とパネト細胞から分泌されるαディフェンシン(抗菌ペプチドとも呼ばれる免疫物質)の分泌量が低下し、それによって腸内細菌とその代謝物に異常が起こること、一方で、マウスの口からαディフェンシンを投与すると、低下していた腸内のαディフェンシンが増加し、うつ病のヒトで低下することが分かっている代謝物の量が回復することを確認した[3]。

 つまり、心理的ストレスは腸内細菌叢の破綻をもたらし、うつを悪化させるという悪い「脳腸相関」を生じさせる一方、口からαディフェンシンを採り入れ腸内細菌叢を変えることで、うつに対して積極的なアプローチができる可能性を示した(関連記事:カオスな腸内細菌叢を新たな指標「αディフェンシン」で制御する

 腸内細菌叢は、加齢によって多様性が失われたり、有用菌が減少することが分かっている。健やかな腸内細菌叢を形成する働きを持つ食物繊維や乳酸菌といった食品成分の探索は、脳腸相関との関係性からも今後ますます注目されていきそうだ。

[1]Nature volume 515, pages175–177 (2014)
[2]J Appl Microbiol. 2012 Aug;113(2):411-7.
[3]Sci Rep. 2021 May 10;11(1):9915.

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