山中因子(やまなかいんし)とは、京都大学iPS細胞研究所未来生命科学開拓部門の山中伸弥教授が発見した、細胞の初期化を誘導する4つの遺伝子(Oct3/4、Sox2、Klf4、C-Myc)のこと。iPS細胞(人工多能性幹細胞)とも呼ばれる。再生医療の分野で実用化が期待されているのはご存じの通りだが、老化研究の分野でも、老化した細胞を初期化、リプログラミングして若返らせるリセットスイッチの役割を果たす遺伝子として注目を集めている。

 この山中因子を用いて「夢の若返り治療薬」の実現を目指している研究者の一人が、世界的ベストセラー『LIFESPAN老いなき世界』(東洋経済新報社刊)の著者で、ハーバード大学医学大学院のデビッド・シンクレア教授だ。同教授らの研究グループが、高齢マウスの目に、山中因子の3つの遺伝子(Oct4、Sox2、Klf4)を誘導する注射を4週間投与したところ、老化によって低下していた視力が回復した。同じ研究グループが、加齢と共に増え失明の原因ともなる緑内障のモデルマウスに山中因子の3つの遺伝子を4週間投与した実験でも、視神経の細胞がリプログラミングされ、視力が改善したという*1

 また、米国とスペインの研究グループが早老症マウスの生体内で、8週間周期的に山中因子の4つの遺伝子を誘導した実験では、腎臓、肝臓、膵臓の機能が改善し、寿命が劇的に延びた。早老症マウスは老化の急激な進行により脊椎が曲がるが、山中因子で誘導すると外見も若々しく保たれたという。高齢マウスに対して同じように短期間山中因子を誘導した実験でも、老化によって低下していた膵臓の機能が回復して血糖値が改善し、萎縮していた筋肉が再生され若返った*2

 さらに、英国の研究チームは、ヒトの皮膚細胞に山中因子の4つの遺伝子を誘導することで、30歳程度皮膚を若返らせることに成功したと報告している*3

 老化の大きな要因の1つは、細胞の遺伝子が変化し、本来の機能を発揮できなくなることだ。山中因子の誘導によって細胞がリプログラミングされ初期化されたような状態になると、老化による遺伝子の変化がリセットされ、神経や臓器、筋肉、皮膚などの機能が回復すると考えられている。