ヘルスケア領域のオープンイノベーションを推進する事例として注目を集めている弘前大学COI(関連記事:最終年度を迎える「弘前大COI」、これが今後の戦略)。様々な業種の企業が参画し、同COIの強みである「超多項目健康ビッグデータ」などを活用した共同研究を進めている。「日経クロスヘルス EXPO 2021」(主催:日経BP)では、同COIに参画している主要6社(花王/クラシエホールディングス/サントリー食品インターナショナル/カゴメ/ハウス食品グループ本社/味の素)が同COIにおける取り組みや得られた成果などを発表した。以降では、その概要を順に紹介していく。

冒頭では弘前大学 健康未来イノベーションセンター(医学研究科附属)副センター長 教授/COI副拠点長の村下公一氏が弘前大学COIの概要を説明した
冒頭では弘前大学 健康未来イノベーションセンター(医学研究科附属)副センター長 教授/COI副拠点長の村下公一氏が弘前大学COIの概要を説明した
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●花王

花王 ヘルス&ウェルネス研究所 主席研究員の森健太氏が説明
花王 ヘルス&ウェルネス研究所 主席研究員の森健太氏が説明
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 超多項目健康ビッグデータの解析において、内臓脂肪と関係する腸内細菌の網羅的な探索を行った結果、「Blautia菌」と呼ぶ腸内細菌を発見。さらに、内臓脂肪が多い人は男性でも女性でもBlautia菌が少ないという結果を得た。

 Blautia菌は誰しもが持っている菌ではあるが、内臓脂肪が少ない人は男性でも女性でも逆にBlautia菌が多いことも判明。すなわち性差なく、内臓脂肪蓄積と相関する唯一の腸内細菌を発見したことになる。弘前大学COIでの取り組みによって、食べる、動く以外でも内臓脂肪を制御できる可能性がある腸内細菌を発見するという、大きな成果を得た。

●クラシエホールディングス

クラシエホールディングス 経営企画室 企画部R&D戦略推進チームリーダーの稲益悟志氏が説明
クラシエホールディングス 経営企画室 企画部R&D戦略推進チームリーダーの稲益悟志氏が説明
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 冷え性とフレイル(虚弱)は未病そのもので、QOLの低下を引き起こす。冷え予防の観点からフレイル予防の早期介入ポイントを明らかにするのが、同社の取り組み。岩木健康増進プロジェクト健診において、冷えの評価として3つの測定項目と計測機器を使用。指先の体温は非接触体温計、指先の毛細血管画像は毛細血管スコープ、指先の血流はレーザー血流計を用いた。さらに質問表を用意。冷えの自覚と冷え特有の行動をスコア化して冷えを判定した。

 その結果、男性は年齢が高くなると冷え性となり、女性は30代、40代で冷え性が多く、年齢が高くなると減少。男女で異なる冷え性の実態が判明した。さらに、冷え評価と多層的ビッグデータの解析により、「冷え」と「未病状態」を同時に検出可能な技術を開発。特許登録もされたこの技術を用いて、健康であり続けるために一人ひとりに最適なサービス、商品の提供を目指している。

●サントリー食品インターナショナル

サントリー食品インターナショナル MONODUKURI本部 R&D部の野中翔太氏が説明
サントリー食品インターナショナル MONODUKURI本部 R&D部の野中翔太氏が説明
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 同社では大きく2つの視点で水の研究に取り組んでいる。ひとつは水を起点に人、対象者を見ていくということ。もうひとつは体の中の水、飲む水によって健康影響がどう出るかということ。この2つの視点から、弘前大学COIでは誰もが行なう単純に水を飲むという行動が、健康の維持向上にどのような役割を果たしているのかを検証している。

 岩木健康増進プロジェクト健診において、独自項目として高精度体成分分析装置による測定を採用。加齢とともに体水分が減少していくこともモニターできるという。単年度だけでなく、縦断で複数年に渡って水の影響を検証。実生活における社会実装を見据えた研究を行っている。

●カゴメ

カゴメ イノベーション本部 自然健康研究部長の菅沼大行氏が説明
カゴメ イノベーション本部 自然健康研究部長の菅沼大行氏が説明
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 日本人の野菜摂取量は厚生労働省の目標値に1日あたり70gほど足りない状況が続いている。同社は野菜に含まれるカロテノイドという色素に着目。人間はこれを体内でつくることができない。つまり、体内に含まれるカロテノイドは、食事由来のものといえる。ドイツの企業と一緒に「ベジチェック」という仕組みを開発。手のひらをセンサーにかざすだけで皮膚のカロテノイドレベルとそれにもとづくおよその野菜摂取量がわかるようにした。

 岩木健康増進プロジェクト健診に導入したところ、やはり野菜摂取量が足りない人が多いことがわかった。さらに、超多項目健康ビッグデータを活用して他の項目との関係性を調べたところ、男女ともにベジチェックの値が高い人ほど肥満の指標であるBMIの値が低く、糖尿病の指標も健康的であることが判明。女性の場合、動脈硬化や血圧、コレステロールといったマーカーの数値も良いということが明らかになった。すなわち、野菜を多く摂取する人はメタボになりにくいということが期待される。今後こういった測定を普及させていくことで、日本の野菜摂取不足の解消に貢献していきたいと考えている。

●ハウス食品グループ本社

ハウス食品グループ本社 研究開発本部 イノベーション企画部 グループ長の上野正一氏が説明
ハウス食品グループ本社 研究開発本部 イノベーション企画部 グループ長の上野正一氏が説明
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 味覚検査やアンケートなどを通じて、味覚や食事の状況が高齢者の健康状態にどのように影響しているかを研究。年代が上がるにつれ、塩味や酸味に関しては感受性が鈍くなり、甘味や苦味に関してはそれほど変化がみられないという結果が出た。また、アンケートでは食事に興味がないと答えた人は塩味に対して、非常に感度が下がっているということが判明。同様に共食をする(誰かと一緒に食事をする)回数がまったくない人は、共食をする人に比べて塩味の感度が鈍くなっていることも明らかになった。なお、同社は岩木健康増進プロジェクト健診のほか、沖縄でも同様の味覚試験を実施。地域による食事の違いも念頭に研究を行っている。

 今後は食事の写真を撮ると栄養素やカロリーが出る食事画像解析アプリを使用し、味覚の状況や食事内容の関係を調査。弘前大学COIの超多項目健康ビッグデータを使用し、高齢者特有の認知症やフレイルにどのような影響を与えているか明らかにしていく。

●味の素

味の素 R&B企画部 シニアマネージャーの三根智幸氏が説明
味の素 R&B企画部 シニアマネージャーの三根智幸氏が説明
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 脳、筋肉、骨などの主要な構成成分、さらにはホルモン、酵素、抗体といったからだの調節機能の物質もたんぱく質からつくられる。アミノ酸は20種類しかないが、10万種類ものたんぱく質をつくり出す材料となるだけでなく筋肉の合成促進、ネットワークのコントロールなどさまざま役割を担っている。そのアミノ酸に着目し、血液中の濃度バランスでからだの状態を評価するのが、同社の疾患リスク診断サービス「アミノインデックス」。

 たとえばある人の血液中のアミノ酸濃度バランスについて、膵臓がんの人のアミノ酸濃度バランスと比較するなど、疾病の人とどれくらい近いかをアルゴリズムで算出しスコア化、ランク付けできる。血中のアミノ酸濃度バランスをみることでリスク診断ができる疾患には、がん・心疾患・脳血管疾患の3大疾病および糖尿病認知機能低下などがあり、さらにその対象を広げようと取り組んでいる。岩木健康増進プロジェクト健診では、糖尿病を発症する2年前にも関わらず、すでに糖尿病を発症している人のパターンに類似しているといった事例が出ている。また、血糖値が正常域でもリスク診断できることがわかっており、より早い段階で気づきを与え、生活習慣の改善を促すことが期待できる。

(タイトル部のImage:日経BP)