Olympus社が開発した二つの革新的な手術用デバイスORBEYE(オーブアイ)とTHUNDERBEAT(サンダービート)により、体の大きさがたった4kgの赤ちゃんの肝臓移植手術が成功し、アメリカでは「奇跡」として報道されました。ORBEYEは手術用顕微鏡であり、患者の映像を倍率26倍の高精細画像で4K/3Dモニター画面に映し出し、医師とチームが3Dメガネをかけ、画面を確認しながら精密に手術を進行することができます。そこにTHUNDERBEATの高周波電流と超音波の技術、さらにアームの先端部の小さな「ハサミ」による高度な操作を加えることで、まだ生まれて間もない患者の体への負担を最小限に抑えることができたそうです。デバイスと医師の技術の名コラボレーションにより、今まで救えなかった命が助かるようになってきています。


以下では、2019年7月29日~8月2日に海外の企業・大学・研究機関・米食品医薬品局(FDA)等が配信したプレスリリースの中から、編集部がピックアップしたものを【ビジネス】【プロダクト/サービス】【要素技術】に分類しました。各項目をクリックすると、それぞれのプレスリリース(ウェブサイトやPDFなど)に移動します。

【ビジネス】

  • ・世界初、赤ちゃんの肝臓移植を成功に導いた手術用顕微鏡システムとエネルギーデバイスの組み合わせ
  •  医療・手術ソリューションを提供するOlympus社が開発した手術用顕微鏡「ORBEYE」と外科手術用エネルギーデバイス「THUNDERBEAT」。この二つの革新的技術を組み合わせ、世界で初めて4㎏の赤ちゃんの肝臓移植が成功した。赤ちゃんのMichaelくんは、胆道閉鎖症を患い、2歳のドナーの肝臓の一部を移植したのち、7週間の入院を経て無事退院。今まで6kg以上の小児患者にしか手術が行われたことがなかったが、この新たな手術技術により、より体の小さな赤ちゃんにも手術が可能となった。ORBEYEを使うことで、医師とチームは55インチのモニターに映し出される高画質のデジタル映像を確認しながら、THUNDERBEATの高周波電流と超音波を組み合わせた技術を用いて、今までにない高い正確性と効率化が実現できるようになった。2018年にアメリカで肝臓移植を受けた患者の数は、8250人。手術時間が短縮することで、医師の疲労を防ぎ、より安全に、連続的に手術を行うことが可能になってきている。
    Olympus ORBEYE Video Microscope and THUNDERBEAT Energy Device Enable Lifesaving Transplant

  • ・抜け毛・薄毛へのスタイリッシュなアプローチ、スカルプマイクロピグメンテーション(SMP)
  •  米Hairline Ink社がニューヨーク、シカゴに引き続き、オースティンにも新事業所を開設し、抜け毛・薄毛で真剣に悩む患者向けの無料カウンセリングを拡大する。同社は、最新のスカルプマイクロピグメンテーション(SMP)技術で多くの患者に施術を行い、自信を取り戻すきっかけづくりに貢献しながら、過去5年の間に急成長を遂げてきた。SMPとは、特別な染料と針を使用して色素を頭皮に挿入していくことで毛根を描き、まるで髪が生えているように見せる施術である。毛根が精巧に描けれているので、ほとんどの患者は、自分から報告するまで気づかれないそうだ。さらに、同社はホームページ上で「Hairloss Handbook」を公開し、抜け毛の原因、SMPの効果、対処法、抜け毛にまつわるウソ・ホント等を取り上げ、抜け毛・薄毛に関する正しい情報提供を行っている。
    Hairline Ink Announces Opening of New Location in Austin and Release of "The Hair Loss Handbook"

  • ・オーストリアで腺様嚢胞がんに対する重粒子線治療を初めて実施
  •  オーストリアのイオンビーム療法センターMedAustonにおいて、世界で初めて、左耳に腺様嚢胞がん(分泌腺から発生する悪性腫瘍)の患者に重粒子(炭素イオン)線治療が実施された。重粒子治療は、がんの位置や大きさ、形状に合わせ、炭素イオンを加速器で光速の約70%まで加速し、ピンポイントの正確さでがんを狙い撃ちする。プロトン(水素原子)と炭素イオンの両方を用いた治療を実施することができるのは、現在世界中でMedAustonを含め6機関しかないそうだ。同機関は、スウェーデンRaySearch社のRayStationと呼ばれるソフトウェアを使用し、2016年にプロトン療法を、続けて2018年には炭素療法を開始した。その後、次世代型情報ツール「RayCare」、治療機器制御システム「RayCommand」、プランニングシステム「RayStation8B」を導入し、国際的な規約に準拠した重粒子線治療を推進している。MedAustonでは18カ国から180人の医師、物理学者、エンジニア、放射線技師が集い、最先端の放射線治療の研究に挑んでいる。
    MedAustron Treats First Patient Using Carbon Ion Therapy With RayStation

  • ・治療抵抗性うつ病性障害の飲み薬が登場
  •  米Relmada Therapeutics社は、治療抵抗性うつ病性障害の新薬「REL-1017」の第2相試験を行い、62人の患者に対して投与を完了したと発表した。本臨床試験に参加した患者は皆、過去に一つ以上の抗うつ治療薬を試したところ、適切な効果が表れず、難治性の大うつ病性障害と診断された経験を持つ。現在のところ、全ての患者においてREL-1017の投与後も、深刻な有害事象や精神病症状は表れておらず、最終研究結果は2019年の第三四半期に公表予定だという。今まで、精神疾患に対する新薬としては、麻薬の一種である「ケタミン」に大きな期待が寄せられてきたが、ケタミンは副作用や長期的な作用について懸念が残っている。REL-1017は、前臨床試験では、ケタミン療法と同程度の抗うつ・神経作用の効果が確認されており、今後さらに副作用がないことが実証されれば、治療抵抗性うつ病性障害の飲み薬として、初めて実用化される可能性が高い。
    Relmada Therapeutics Announces Completion of Dosing with REL-1017 in Phase 2 Study of Individuals with Treatment Resistant Depression

世界初「糖分カット」のオレンジジュース

【プロダクト/サービス】

  • ・オレンジジュースの糖分を酵素の力で80%カット
  •  イスラエルのフードテック・スタートアップ企業Better Juice社が大手オレンジジュース販売会社ブラジルCitrosuco社と提携し、糖類を一切排除したオレンジジュースの開発を目指す工場を建設する。果物ジュースには、豊富なビタミンやミネラル、栄養素とともに、3種類の糖類が含まれている。Better Juiceの革新的な酵素技術により、果糖を、食物繊維やヒトの消化酵素で消化されない糖類に自然に変化させ、糖質を最大80%カットすることができるそうだ。遺伝子組み換え技術を使用せずに、微生物の力で糖分を減らしながら、自然の果実の味をそのままに味わえるという。この「Better-for-you(よりあなたに優しい)」をうたうオレンジジュースは、100%オレンジジュース界において、誰も考えつかなかった世界初の「糖分カット」を実現。同社は、イスラエル国立ヘブライ大学と共同で本技術を開発し、2018年にドイツ・フランクフルトで開催されたStartup Innovation Challengeにおいて、「最も革新的な技術賞」を受賞している。
    Better Juice to Build Pilot Plant for Low-sugar Orange Juice

  • ・7時間睡眠を継続させる「REMfresh」、体の自然なメラトニンパターンと類似
  •  「REMfresh」は、米Physician’s Seal社が開発した、米国のドラッグストアで一般的に売られている睡眠導入薬である。REMfreshはUltraMelメラトニンと呼ばれる純粋メラトニンを99%配合し、既に各国において20年以上の販売実績があり、安全性と信頼性が確立されている商品である。今回、「REMfresh」の持続性メラトニン効果(CRA-メラトニン)と、その他の一般的な睡眠導入薬に含まれる、即効性メラトニン効果(IR-メラトニン)を比較した、薬物動態(薬物が体内に投与されてから、排出されるまでの過程)に関する研究について驚くべき結果が、「中枢神経障害の初期診療のガイドブック」という医療雑誌に発表された。まず、即効性メラトニンを含有する薬は、睡眠導入時に必要とされるメラトニン量の23倍に当たるメラトニンを放出するが、その後4時間以内にメラトニン量が急激に減少することが分かった。その一方で、REMfreshの革新的な「イオンパワーポンプ技術」を使った持続性メラトニンは、体内で7時間連続放出・吸収を継続し、睡眠を長時間分断なく持続させることが可能だと証明された。REMfreshのこの効果は、体の自然なメラトニンパターンと類似しており、今後も研究を続けることで、将来的には薬に頼らずに、患者自身のメラトニンに働きかけることで催眠効果が得られる方法が見つかるかもしれないという。米国では約6000万人が睡眠障害を抱え、慢性的な睡眠不足による肥満、糖尿病、高血圧、うつ病などが問題となっている。人間にとって理想的な睡眠時間は6~8時間とされており、今後も体内時計に焦点を当てた「クロノバイオテック」(体内時計テック)の研究に期待が高まる。
    First-Ever Study Of 7-Hour, Drug-Free Continuous Release And Absorption Melatonin (Cra-melatonin™) REMFresh®, Published In Primary Care Companion For CNS Disorders Journal

  • ・こども向けウェアラブルスポーツウォッチ「Kyn」でゲームをしながら健康増進
  •  7月30日に発売されたこども向けウェアラブルデバイス「Kyn」は、ユニークで魅力的なキャラクターが登場するアドベンチャーゲームやデジタルペットの世話を通して、こどもが人生にとって重要な教訓を学びながら、健康でアクティブに過ごすサポートをしてくれる。米国保健協会の調査によると、米国では毎日体を動かしているこどもは3人に1人しかおらず、思春期の子供になると1日平均7時間スマホやパソコンの画面の前で過ごしており、健康に関する懸念が高まっている。Kynを利用すると、保護者のアプリと同期して、保護者が子供の目標を設定し、運動の記録、日々のスケジュールの確認、ご褒美やデジタルペットなどの機能を共有して楽しんだり、お手伝いの時間を組み込んだりすることができる。健康的な生活習慣と共同生活における責任感を、家族と一緒に楽しみながら養うことができるデバイスとして、人気が出そうだ。
    Kyn Launches, Providing a New Tech-Wearable to Motivate Kids to Establish Healthy Habits and Wellness

  • ・心電図をモニタリングするスマートウォッチで、中国医療市場に旋風を起こす
  •  中国Guangdang Lifesense Health Electronics社が開発した心電図(ECG)モニタリングスマートウォッチが、中国で初めて中国食品医薬品局(CFDA)の認可を受けた。このデバイスを使うと、自分の運動・慢性疾患に関するデータを、「Lifesense Cloud」というスマートヘルス・クラウド・プラットフォームで管理でき、病気の予防・治療・リハビリ・健康増進のための個別化ヘルスサービスを受けることができる。利用者は、スマートウォッチの心電図モニタリング機能を利用し、潜在的な病気のリスクを調べるために医師にデータを送信し、医師は利用者のデータを見て異常を検知し、適時フォローアップを提供する。この新デバイスが、中国の従来の独占的な医療システムに一石を投じ、医療サービス市場を開放するきっかけとなることに大きな期待が寄せられる。
    Single-lead ECG Wristband developed by Lifesense Health Officially Passes CFDA Certification

ダニ媒介感染症の迅速検査がFDA承認

【要素技術】

  • ・初期のすい臓がんも、分子診断で検知可能に
  •  米OTraces社が、分子診断技術を使い、すい臓がんを早期発見する予備研究を行った。研究はピッツバーグ大学メディカルセンターで行われ、がんのバイオマーカー(病状の進行度を示す物質)を、腫瘍微小環境(腫瘍の周囲に存在して栄養を送っている正常な細胞・分子・血管)の中の、すい臓がんに関係するタンパク質から選別して調べたところ、検査精度98%という目覚ましい成果が出たそうだ。同社は、年次のがん検診項目である乳がん、前立腺がん、肺がん、卵巣がん、メラノーマに加え、すい臓がんを加えることが可能になったと発表し、今後もできる限り安価で手軽に受診できる、精度の高いがん検診を提供したいと意気込む。乳がんは、既にステージ0からの検知が可能になってきており、今後も他社とのコラボ研究を通し、がん検診や特殊目的試験の精度向上を目指しているそうだ。
    Pancreatic Cancer Detection Study Yields Encouraging Results

  • ・ナチュラルキラー(NK)細胞の市場動向(2018年-2026年)
  •  NK細胞とは、免疫細胞の一つであり、がん細胞をいち早く攻撃、殺傷するとして注目されている。米Allied Market Research社の調査によると、NK療法の市場は2026年には50.9億ドル(約5400億円)に達し、年平均成長率は、17.4%に上ると予測される。今後、感染症や肝臓疾患治療の増加、免疫治療に対する意識の向上、二重特異性抗体(一つの抗体で二つの標的分子に結合する抗体)の研究開発の発展により、NK細胞の市場はますます活性化するそうだ。一方で、特異度(ある検査を健常者集団に行った場合に、陰性と判定されるものの割合)が低いこと、生体内におけるNK細胞の生存割合が低いこと、治療のコストの高さ、副作用などの課題が成長を妨げる要因として挙げられている。免疫療法の可能性を開くNK細胞の研究動向を、今後も注視する必要がある。
    Natural Killer (NK) Cell Therapeutics Market to Reach $5.09 Bn, Globally, by 2026, at 17.4% CAGR: Allied Market Research

  • ・先進コネクテッドケアで、糖尿病網膜症を専門医が遠隔診断
  •  米Hillrom社が開発した「Welch Allyn RetinaVUe 700 Imager」と呼ばれる携帯式網膜検査カメラ。遠隔地に住んでいたり、外出に困難を抱えたりしている患者に対して総合診療医(primary caregiver)が訪問診療を行い、患者の網膜の写真を撮影し、糖尿病網膜症の診断を早期発見できるようになると期待される。糖尿病網膜症は、糖尿病の三大合併症の一つであり、成人の中途失明の主な要因となっている。この新型カメラを使うと、2.5mmの瞳孔の高品質画像を自動撮影で、従来よりも75%広範囲に取得できるそうだ。患者の網膜の画像は、同社の通信ネットワークを利用し、各州の認可済の眼科医、網膜専門医、もしくは地元の眼科医院にすぐに送信・診断されたあと、診断書が最初の総合診療医に1日以内に返送される仕組みだ。データセキュリティーには細心の注意が払われ、データ送信には暗号化とクライアントサーバー認証を実装して安全性が強化されているという。先進コネクテッドケアにより、疾患を早期発見する取り組みの一例である。
    Hillrom Introduces Next-Generation Breakthrough Technology In Fight Against Diabetic Retinopathy

  • ・マダニを介した感染症「ライム病」を「酵素免疫測定法」で迅速に検出
  •  米食品医薬品局(FDA)が、ライム病の新たな検査方法を承認した。ライム病とは、ライム病菌に感染した野生のマダニに咬まれることで発症する感染症であり、2017年の米国における発症例は、4万2743件報告されている。症状は、発熱、筋肉痛などのインフルエンザ症状に加え、皮膚に紅斑症状が出る場合があり、治療しないまま放置すると、感染が関節・心臓・神経系にまで広がるため、早期治療が必要である。従来のライム病の検査は2つの別々のタンパク質のテストを行う方法を取り、検査結果が出るまで時間を要したが、今回の新たな検査方法を使うと、2種類の酵素免疫測定法を同時並行で実施し、臨床医によりその場で迅速に結果が分かるため、早急に対処できるようになるという。日本では、ライム病は2018年までの20年間で231例報告されており、数は少ないものの、野鼠やマダニの病原体保有率は欧米並みであることから、潜在的にライム病が蔓延している可能性が高いと推測されている。酵素免疫測定技術の向上が進むことで、医師も見分けることが難しい感染性の病原体の増殖を防ぐことが可能になる。
    FDA clears new indications for existing Lyme disease tests that may help streamline diagnoses

(タイトル部のImage:Photobank -stock.adobe.com)