米カーネギーメロン大学のAndrew Lee氏らは、新たな3Dバイオプリンティング法を開発し、コラーゲンからヒトの心臓を構成する部位の作製に成功したと、「Science」8月2日号に発表した。同氏らは、この研究成果は、3Dプリンターによる人工心臓の作製技術をさらに前進させる重要な一歩になるものだとしている。

 コンピュータモデルに基づき三次元の物体を作製する3Dプリント技術は、さまざまな産業で応用が進んでいる。近年では、3Dの「バイオプリンティング」技術が開発され、個々の患者用にカスタムメイドされた人体の組織や臓器を作製し、移植治療につなげられるのではとの期待が寄せられている。一方、人体の構造は複雑で、移植可能な組織や臓器が作製できるようになるまでの道のりは長いとする見方が大勢を占めている。

 Lee氏らは今回、新たなバイオプリンティング法を開発し、タンパク質の一種である「コラーゲン」からヒトの心臓を構成する部位の作製に成功した。なお、コラーゲンは体細胞を取り囲む分子のネットワークを形成し、細胞と細胞をつなぐ細胞外マトリックスの主成分だ。

 従来のバイオプリント技術では、液体のコラーゲンはプリントしても水たまり状になってしまった。しかし、Lee氏らは今回、バイオプリント後に溶解するゲル(バイオインク)を用いることで、コラーゲンが凝固するまでの間、細胞を支持することができるようになった。同氏らによれば、この新たな技術により、生きた細胞とコラーゲンのような柔らかい生体材料をプリントするという難題を克服できるという。

コラーゲンからバイオプリントされた心臓弁(写真: Carnegie Mellon)

 この技術は「FRESH 2」と呼ばれるもので、Lee氏らは、この技術によって直径20μmの極細のコラーゲン繊維も正確にプリントすることができた。また、同氏らは、このコラーゲンのバイオインクを用いて人体の心筋細胞をプリントし、心臓でポンプの働きを担う左心室や、開閉できる心臓弁、新生児の心臓モデルを再現できたことも報告。「移植可能な人工心臓の作製にはほど遠いものの、実現に向けた重要な前進だ」と説明している。

 この研究について、付随論評を執筆した米タフツ大学医用生体工学准教授のLauren Black氏も「飛躍的な進歩だ」と高く評価。この手法はコラーゲンにとどまらず、フィブリノゲンやヒアルロン酸などの他の物質にも応用できると指摘する。また、同氏は、将来的には患者自身の幹細胞を用いることで、「個々の患者に合わせてカスタマイズした組織や臓器の作製が可能になるのでは」と期待を示している。さらに、移植用の臓器不足の問題や移植後の拒絶反応といった課題も克服できるのではないかとしている。

 ただし、人工臓器による移植の実現には、まだ相当な時間がかかるようだ。現実的には、「新薬の有効性や安全性を検証するための研究や、現在は動物を用いて行われている研究の一部に、バイオプリントしたヒトの組織を活用できる可能性は高い」とBlack氏は説明。Lee氏もその考えに同意を示している。

[HealthDay News 2019年8月1日]

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