「キメラ抗原受容体」による新たながん免疫療法が米国で注目されています。キメラ抗原受容体とは、ゲノム編集で作られた人工の受容体であり、がんに対して攻撃性のある情報が詰め込まれています。この情報を、自然免疫システムの先頭隊の役割を果たす免疫細胞「マクロファージ」に埋め込み、人為的にがんを攻撃するようにプログラミングする研究が進んでいます。キメラ(chimera)とは、ライオンの頭、山羊の体、蛇の尾を持ち、口から炎を吐くというギリシャ神話に出てくる怪物の名前です。「オプジーボ」などの免疫チェックポイント阻害薬やCARーT細胞療法に次ぐ、新たながん免疫療法の登場で、がんとの闘いは次のステージへと加速しています。


以下では、2019年9月9~13日に海外の企業・大学・研究機関・米食品医薬品局(FDA)等が配信したプレスリリースの中から、編集部がピックアップしたものを【ビジネス】【プロダクト/サービス】【要素技術】に分類しました。各項目をクリックすると、それぞれのプレスリリース(ウェブサイトやPDFなど)に移動します。

【ビジネス】

  • ・マクロファージ免疫療法で固形がん治療に挑む米2社の共同研究
  •  米Phio Pharmaceuticals社が、米Carisma Therapeutics社との共同研究を開始する。Phio社が開発したRNA干渉(RNAi)の化合物を使って、Carisma社のキメラ抗原受容体マクロファージ(CAR-M)を相乗的に改変することが狙い。キメラ抗原受容体とは、ゲノム編集で作られた人工の受容体であり、既に難治性の血液がんにおいて、非常に高い治療効果が得られることが明らかになっている。今回、RNAi化合物のSd-rxRNAを使って重要な遺伝子のサイレンシング(遺伝子の翻訳の阻害)に成功できれば、固形がんの養子免疫療法が一気に前進する。

     がん治療において、局所腫瘍の免疫抑制作用は大きな課題である。腫瘍に対するT細胞や腫瘍組織浸潤リンパ球、NK細胞(ナチュラルキラー細胞)、樹状細胞などの免疫細胞の活動を高める技術を検証するために、Phio社は複数の企業や学術研究所と提携した。マクロファージは、自然免疫システムの先頭隊的な存在であり、多くの固形腫瘍にどんどん集積する性質がある。このマクロファージの抗腫瘍作用を促進することで、免疫刺激を活性化し、腫瘍細胞をやっつけることが狙い。治療法が効かない「Cold tumor(冷たいがん)」を、身体の免疫系から戦いを仕掛ける「Hot tumor(熱いがん)」に変えるための研究が、がん治療の可能性を広げる。

     Phio社とCarisma社の共通の目標は、遺伝子操作で作ったマクロファージのデータを集め、様々な種類の免疫細胞を腫瘍に対して「武器化」するプラットフォームを構築すること。これから多くのパートナーシップを形成し、新たな価値の創出を目指す。
    Phio Pharmaceuticals Announces Research Collaboration with Carisma Therapeutics to Evaluate its Self-Delivering RNAi Technology to Enhance Macrophage-Based Adoptive Cell Therapy

  • ・完全にテーラーメードな膝関節置換術
  •  筋骨格系医療機器のグローバルリーダーである米Zimmer Biomet Hodings社が、膝関節置換術の再手術に使用する「Persona Revision Knee System」を開発し、米食品医薬品局(FDA)の承認を取得した。本システムは、数週間以内に米国の患者へ提供を開始し、患者に解剖病理学に基づいた最適な治療を行う。膝の再手術における単純な処置にも、難易度の高い処置にも、担当の外科医が最新の器具を使いながら最適な手法を自由に選択できる新たなシステムとして期待される。

     本システムには、Zimmerの独自の技術が活用されている。一つは、Trabecular Metal Technology。これは、同社が開発した多孔性のあるユニークなバイオ素材であり、タンタルという希有金属元素の性質により、骨と非常によく似た構造や機能を持つ。既にこの素材は、20年以上も治療に活用されている。もう一つは、Vivacit-E Highly Crosslinked Polythylene(HXPE)。インプラント器具の表面に安定化作用のあるビタミンEを用い、器具を酸化から守りながら防水性を持続させ、長持ちさせる技術だ。

     同社の独自技術をPersona Rivision Knee Systemに統合することで、患者中心のケア体制がさらに充実する。膝関節置換術を受ける患者一人ひとりの個別な条件をベースに、完全にテーラーメードなインプラントを提供できる日が数週間後に迫る。
    Zimmer Biomet Commences Commercial Release of Persona® Revision Knee System

  • ・CryoLife社の強力な販売網とEndospanの革新的手術デバイスがタッグ
  •  大動脈疾患の外科手術に強みを持つ米CryoLife社は、イスラエルEndospan社との販売店および融資契約を締結し、オプション契約として、Endospan社の買収を提案した。Endospan社は、大動脈弓動脈瘤の切開手術に用いる、「NEXUS」という革新的な血管内ステントグラフトシステムを開発した。ステントグラフト治療は、太ももの付け根の部分に小さな切開を入れるだけで治療ができ、他の部分は切開する必要がないため、患者の体の負担を極めて低くできる、優れた治療法だ。今回の2社の契約により、Cryolife社の大動脈弓治療における優位性はより一層強化される。

     本契約により、CryoLife社は、欧州におけるNEXUSの独占販売権を取得。欧州の1億5000万ドル(約161億円)規模の血管内大動脈弓の治療市場へのアクセス、そして、今後法規制の承認を待つ地域を含めると、8億ドル(約861億円)のグローバルな潜在市場が待ち受ける。米国と欧州では毎年12万人が胸部大動脈瘤と診断されるが、そのうち3万人しか治療を受けていない状況であり、大動脈弓自体の改善が求められている。

     腹部大動脈瘤や胸部大動脈瘤には、低侵襲性の手術が一般的に行われてきたが、大動脈弓の動脈瘤の切開には、リスクと負担の高い開胸手術が行われ、入院と療養の期間が長期化する傾向があった。NEXUSは、複雑な大動脈手術を、スタンダードな血管内治療に組み込み、ユニークな幾何学的なデザインによって、処置の安定性を実現し、発作のリスクを防ぐ。特に身体にメスを入れることが難しい高齢患者や、過去に何度か手術を受けたことがある患者には、NEXUSのような低侵襲性の手術が求められており、今後もニーズは増えるであろう。
    CryoLife Enters Into Distribution Agreement with Endospan

  • ・スマホを使って簡単に家で尿検査できるキット
  •  イスラエルHealthy.io社は、スマートフォンのカメラを医療機器に変えるグローバルリーダー。今回米食品医薬品局(FDA)の承認が下りたのは、スマホを使った尿アルブミン/クレアチニン比(ACR)テスト。医療施設で、スマホを使って簡単にACRテストを行えるようになり、米国の3500万人以上の慢性腎臓病患者の診断をサポートする。昨年、同社が開発した家庭用の「Dip.io」という、スマホを使った尿路感染症や妊婦検診用の尿検査キットは既にFDAに承認されており、今回承認が下りたのはHealthy.ioにとって二つ目の製品。次は、ACRテストキットを家庭でも使用できる承認を得るため、プロセスを継続中である。

     Healthy.ioの創立者でありCEOのヨナタン・アディリ氏は、「スマホによって、ヘルスケアのレベルを均一化できる。そのためにも、各企業は医療の最も高いスタンダードに合わせたサービスを提供する必要がある。今回、スマホを使ったACRテストのFDAの承認が下りたことで、これから糖尿病や高血圧を患う何百人もの人の健康診断に活用し、慢性腎臓病の治療に役立てることができる」と意気込む。Healthy.ioのスマホを使ったACRテストの品質は、研究所で行われるテストと同等と認識されており、医療専門家による使用も認められている。大掛かりな検査装置を購入するコストが削減できるため、薬局、救急施設、クリニックなどで利用が広がりそうだ。自動スマホスキャンで、すぐに電子カルテにアクセスができる点も便利だ。

     米国では多くの人が医療サービスへのアクセスがないことで健康診断の機会を失い、病気が見過ごされ悪化する事態が起きている。スマホで、ACRテストがもっと手軽にできるようになれば、たくさんの人の健康管理につながる。Healty.ioは、ベンチャーキャピタルのCorner Ventures社、Joy Capital社、Samsung NEXT社などが集う6000万ドルのシリーズCの投資ラウンドを終えたばかり。グローバル展開と製品開発にますます拍車がかかる。
    Healthy.io Raises $60 Million in Series C Funding and Receives FDA Clearance for Smartphone-Based Test to Diagnose Chronic Kidney Disease