病院へ行かなくても、身に付けるだけで脈拍・呼吸・体温・血圧・意識レベルといったバイタルサイン(生命兆候)を一定期間モニタリングできる便利な装置、医療用ウエアラブルデバイス。その原型は1960年代に米国で一世を風靡したSFテレビドラマシリーズ「スタートレック」の「トライコーダー」だと言う人もいます。トライコーダーは携帯機器であらゆるものの探査、分析、記録ができ、未来の装置の理想像として親しまれました。今、ビジネス界ではウエアラブルデバイスやセンサーなどのIoT(モノのインターネット)の開発が進み、様々なテクノロジーカンパニーの間で、健康モニタリングへの投資が活発化しています。9月25〜26日に英国ケンブリッジ市で開催されるイベント「Healthcare Sensor Innovation」では、医療用ウエアラブルデバイスの最新動向が語られます。


以下では、2019年9月16~20日に海外の企業・大学・研究機関・米食品医薬品局(FDA)等が配信したプレスリリースの中から、編集部がピックアップしたものを【ビジネス】【プロダクト/サービス】【要素技術】に分類しました。各項目をクリックすると、それぞれのプレスリリース(ウェブサイトやPDFなど)に移動します。

【ビジネス】

  • ・医療用ウエアラブルデバイスの未来予測
  •  英国の調査会社IDTechEx社が、英国ケンブリッジ市で9月25日から26日までHealthcare Sensor Innovationというイベントを主催する。世界中から多くの企業が集まり、医療界への導入を狙う新たなウエアラブルデバイスや、既に販売を開始している製品が紹介される予定だ。参加企業は、取り扱うデータの種類(疾患分野)、センサーの種類(光学センサー、化学バイオセンサー、生体電位センサー等)などの幾つかのグループに分かれ、それぞれの特徴や戦略について最新情報の共有を図る。

     医療用ウエアラブルデバイスには主に3つのタイプがある。一つは、バイタルデータを測定する光学センサー。多くの企業が、光学カメラなどを使う、直接装着しなくても測定ができる遠隔モニタリング機器の開発を目指す中、センサーの誤検知やノイズなどの難しい課題が残る。医学的に承認された製品はまだ少なく、商用化は難航している状況だ。モニタリングの正確性を求められる医療機器としては、やはり肌に直接触れるウエアラブルデバイスが優勢である。

     二つ目は、電極を用いて、心電図や筋肉の活動量、視線の動き、脳の活動を測定する生体電位センサーだ。このタイプは、ウエアラブル機器とインプラント機器を組み合わせて使用するケースも多い。肌に貼るパッチや、センサー機能を持つ衣類、胸部のストラップなどが使われる。車のシートにセンサーを搭載するような、直接体に装着しないデバイスのアイデアも多くあるが、まだ実用化には至っていない。生体電位は、情報を取得するモニタリングだけでなく、神経に刺激を加える疾患治療法「ニューロモデュレーション」にも活用され始めている。

     三つ目は、血液や汗などに含まれる抗体や酵素を使用して、特定の分析物への反応を測定する化学バイオセンサーである。この測定法では、抗体や酵素を、インプラント機器や針、パッチ、尿検査キットなどで体から採取する必要がある。化学物質の遠隔モニタリングは難易度が高く、商用化の事例はまだ数えるほどしかない。その他にも、体温や血圧、ストレスレベルを測定する装置などがあり、喘息、難聴、呼吸器疾患への適用も進められている。

     目指すところは、「コンタクトレス・モニタリング」、つまり身体にデバイスを装着しなくても、遠隔でモニタリングが可能になることであるが、当面は、測定する部位にできる限りモニタリング機器を近づけて使用するウエアラブルデバイスの活用が拡大すると予測される。2019年には500億ドル(約5兆3780円)の市場に成長するとみられるウエアラブルデバイスのうち、約3分の1は、既に承認された医療用デバイスが占めている。中でもスマートウォッチ、スマート衣類の医療への活用に注目が集まる。
    IDTechEx: The Future of Medical Is Wearables? (Part 2)

  • ・米Abott社と仏Sanofi社が糖尿病のコネクテッドケアでコラボ
  •  米Abott社とフランスSanofi社がパートナーシップを組み、グルコースセンサーとインスリンデリバリー技術を統合することで、糖尿病患者の治療をよりシンプルに変えようとしている。両社はコネクテッドケアを目指し、世界中で利用されているAbott社の「FreeStyle Libreシステム」とSanofi社のインスリン投薬情報を連携するツールを開発し、今後スマートペンやインスリン滴定アプリ(インスリン投与量の最適化を支援するアプリ)、クラウドソフトウェアの提供を目指す。

     Abott社のシニアバイスプレジデントのジェリド・ワトキン氏は、「糖尿病の管理には様々な情報が必要であるため、複数のデバイスから多種のデータを取得している。FreeStyle Libreを使ってデジタルなエコシステムを構築することで、ユーザーのデータをひとまとめに管理し、ユーザーエクスピリエンスをシンプル化することができる。そのためには、他社との連携が必要だ」と言う。

     FreeStyle Libreは、指先から血液を採取する従来の方法ではなく、上腕にデバイスを装着することでグルコースを測定し、リアルタイムでグルコースレベルの変化をスマホで確認できる新しいタイプのモニタリングシステムだ。ユーザーの同意の元、FreeStyle Libreのデータと、現在Sanofi社が開発中のインスリンペンやアプリのデータが共有できれば、糖尿病患者と医師が共に治療薬や食事、ライフスタイルについて適切な判断ができるようになる。Sanofi社のシニアバイスプレジデントのグスタフ・ぺスキン氏は、「Sanofi社は100年近く、糖尿病患者に様々な治療薬を提供し、寄り添ってきた。今回の戦略的パートナーシップにより、デジタルツールを活用した、新たなステージへと治療をレベルアップすることができる」と語る。2社は、数年以内に、糖尿病患者にコネクテッドケアを提供できるよう、国の承認プロセスを急ぐ。個別最適な血糖値管理が可能になり、患者のQOL(生活の質)改善の実現を目指す。
    Abbott and Sanofi Partner to Integrate Glucose Sensing and Insulin Delivery Technologies to Help Change the Way Diabetes is Managed

  • ・中国Ping An Groupが医療用AIイメージングソフトに16億円投資
  •  医療用AIソフトウェアプロバイダーの米Riverain Technologies社の肺疾患検知技術に、中国Ping An Insurance(Group)社が1500万ドル(約16.1億円)の投資を発表した。Riverain社の「Clear Read」というソフトウェアツールは、米食品医薬品局(FDA)に承認されたAI(人工知能)とマシンラーニングの技術をイメージングに活用。米Duke大学、Mayoクリニック、シカゴ大学、在郷軍人病院など、世界中の大手病院で利用されており、高度なイメージング技術で正確かつ効率的にがんやその他の開胸CT画像やX線画像の細胞の異常を検知することができるツールで、クラウドでの利用が広がっている。

     本投資プログラムPing An Global Voyager Fundのマネージング・ディレクター兼CMOのマルコ・ヒューシュ博士は、「がんをできる限り早く検知することが患者の治療に最も有益である。がん治療をグローバルに前進させるためのRiverain社とのパートナーシップにワクワクしている」と語る。

     Ping An Groupは、グローバルに金融サービスを提供し、1億9000万の小売顧客と、5億7600万人のインターネットユーザーネットワークを抱える。フォーブスグローバル2000の長者番付には7位、フォーチューングローバル500では29位にランクインしている。Ping An Groupのグローバルなリーチを活用し、Riverain社の医療用AIイメージングソフトが、多くのがん疾患の早期発見に貢献することに期待が高まる。
    Ping An Leads Investment in Riverain Technologies to Advance AI in Healthcare

  • ・副作用の少ないGRX-917が神経障害治療薬の中心的存在になる
  •  気分障害の治療薬開発を行うバイオテク企業、米GABA Therapeutics社と、精神医学におけるパラダイムシフトを起こすドイツATAIライフサイエンス社がパートナーシップを表明した。2社は、不安症やうつ病などの気分障害の治療効果を高める新薬の開発に取り組む。GABA社の代表製品である「GRX-917」は重水素化したエチホキシンであり、約40カ国で承認されている、即効性と効果の高い非ベンゾジアゼピン系抗不安薬である。一般的に利用されているベンゾジアゼピン系薬のアルプラゾラム「Xanax」やロラゼパム「Ativan」と同等の効果があり、鎮静作用、記憶喪失、身体依存などの深刻な副作用がより少ないことが実証されている。

     薬物治療が効かない精神疾患を患う患者は何百万人もおり、GRX-917の服用は症状軽減と、QOLの向上、医師との良好な関係作りをサポートする。不安症とうつ病は同時に発症するケースが多く、米国では3人に1人が不安症を抱えているといわれる。また、治療を受けるのはその中でもさらに3人に1人であり、症状が改善するのは10%足らずだ。2018年には、米国のおよそ1億4000万人が不安症の治療薬を処方され、薬物の治療効果の改善が急がれる。

     GRX-917に使用されるエチホキシンは、神経ステロイドのアロプレグナノロンなどのレベルを高めることで、抗不安作用を増進させることができる上、抗うつ、神経保護、神経栄養性、抗炎症作用を合わせると、より広範な中枢神経系疾患に応用できると期待されている。前臨床研究では、エチホキシンは疼痛、神経多発性硬化症、てんかん、アルツハイマー病などの神経障害に広く効能を発揮することが分かっている。これから実施される2a相の実証実験を、シリーズAラウンドで集まった1550万ドル(約16.7億円)の投資が支える。
    GABA Therapeutics and ATAI Life Sciences Partner to Develop a Novel GABA Modulator for the Treatment of Mood Disorders