脳波で全身の「外骨格」を操作するアシスト付きスーツを着用することで、四肢麻痺患者が再び手足を動かせるようになったという研究結果を、フランスの研究チームが「Lancet Neurology」10月3日号に発表した。このプロジェクトは、フランスの生物医学研究センター、クリナテックとグルノーブル大学が共同で行ったもの。プロジェクトのチーフを務めたGuillaume Charvet氏は「脳信号を読み取って、リアルタイムで“外骨格”を制御するスーツを活用することで、四肢麻痺患者が歩けるようになったのは今回が初めてだ」と話している。

 2年間にわたるこのプロジェクトには、リヨン在住の28歳の男性患者、Thibaultさんが参加した。Thibaultさんは4年前に約12メートルの高さから転落し、四肢麻痺に陥った。

 Thibaultさんは2017年、運動機能や感覚を司る脳領域の頭表部に、64個の電極がついた小型のワイヤレスセンサーを埋め込む手術を受けた。これらのセンサーは脳信号を読み取り、ワイヤレスでコンピュータに送信、変換し、外骨格型のスーツに脳の指令を送って動かすという仕組みだ。

(写真:Fonds de dotation Clinatec)

 Thibaultさんは、3カ月以上にわたって画面上のアバターを動かすシミュレーションプログラムに取り組んだ。すると、考えをセンサーで読み取ることで画面上のアバターの腕や脚を操作できるようになり、仮想空間で歩いたり、物を拾ったり、拾い上げたりすることもできるようになった。

 次に、半分に割った白い鎧のような外骨格型のスーツを背面に装着し、シミュレーションプログラムで習得したスキルを試した。このスーツには14カ所の関節があり、14パターン前後の動きが可能になるという。これらの動きのうち何パターンが実際にできるのかを調べるため、Thibaultさんは手足の動きを評価するさまざまな検査を受けた。計45回のセッションを受けた後、チームはこのプロジェクトは最終的に成功したと判断した。

 6回のセッションにかかる総時間の73%で、Thibaultさんは歩くことができた。ただし、歩行にはバランスを保つために天井から吊り下げたハーネスを使う必要があった。また、両手を同時に伸ばして特定の物に触れることもできるようになり、5回試みて成功率は71%だった。なお、合併症はなく、スーツとセンサーのシステムは7週間に1回の頻度で調整が必要だという。

 Thibaultさんは「初めて月面に着陸した人になった気分だった。2年間も歩いていなかったので、どのように立ち上がるのかも忘れてしまっていた」とBBCニュースに語っている。

 今回のプロジェクトでは心強い結果が得られたが、Charvet氏らは「これは治療ではなく、Thibaultさんの状態は変わらない」と強調。また、研究段階の技術であるため、臨床応用までには相当な時間がかかるとしている。それでも、ThibaultさんやCharvet氏は、この研究成果をきっかけに、脳波で操作する車椅子などの技術革新につながることに期待を寄せる。Charvet氏によれば、このプロジェクトには、3人の新しい患者が参加する予定だという。

 一方、英ロンドン大学衛生熱帯医学大学院教授のTom Shakespeare氏は付随論評で、このような技術の発展を称賛した上で、「多くの麻痺患者にとってより良い生活に必要なのは、質の高いケアと支援技術だ」と指摘。まずは、車椅子を操作する既存の技術が、必要とする全ての人に行き渡るようにすることも課題だと述べている。

[HealthDay News 2019年10月4日]

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