ドイツCellex社が、CAR-T細胞(キメラ抗原受容体T細胞)をはじめとする先端医療医薬品(advanced therapy medicinal product)を製造する新たな工場を建設しました。CAR-T細胞療法は、患者の血液からT細胞を取り出し、腫瘍のみを攻撃するように遺伝子を改変し、患者に戻す治療です。最近日本でもCAR-T細胞を用いた治療法「キムリア」が保険適用され、1回の治療費が5000万円近くするなど話題に上りました。

 CAR-T細胞の製造がどのように行われるのか、プロセスを簡単に説明します。まず患者の血液からT細胞を採取し、CAR-T細胞製造工場へ送ります。工場では、患者のT細胞を改変し、特定の抗原を発現するがん細胞のみを攻撃するように作り替えます。細胞をがんと闘えるよう十分に増やした後、厳しい品質検査を経て、最終製品として患者の治療施設へ送り届けます。CAR-T細胞を患者に投与するのは1回だけ。あとは、CAR-T細胞が体内でがん細胞を攻撃するのを待つという、高度に個別化された治療法です。このドイツの新たな施設で研究が進み、がんに対する細胞治療が大きく前進することが期待されます。


以下では、2019年12月9~13日に海外の企業・大学・研究機関・米食品医薬品局(FDA)等が配信したプレスリリースの中から、編集部がピックアップしたものを【ビジネス】【プロダクト/サービス】【要素技術】に分類しました。各項目をクリックすると、それぞれのプレスリリース(ウェブサイトやPDFなど)に移動します。

【ビジネス】

  • ・ドイツCellex社が革新的なCAR-T細胞の大規模製造工場を建設
  •  ドイツCellex社が、ケルン市に延床面積800m2の新しい製造工場を建設した。この工場は、CAR-T細胞などの革新的な細胞治療製品を製造する拠点となり、様々な種類のがんや病気の標的治療を推進する。新工場の設立によって、同社の製造能力は2倍となり、細胞治療のグローバルな需要の拡大と細胞治療の実績をベースに、遺伝子治療という世界的な課題への取り組みを本格化する。様々な難病の患者に包括的なサポートを提供し、新たな治療法を開発するための環境が整う。

     この新たな工場で、磁気選別、細胞精製、凍結保存、細胞の有効性試験などの最新テクノロジーを用い、CAR-T細胞をはじめとする先端医療医薬品(ATMP)が製造される。ATMPを長期凍結保管する設備も工場内に設置。同社は、細胞製造だけでなく、幹細胞や骨髄細胞も集めており、がん患者の治療の選択肢拡大を目指す。

     Cellex社は2001年に設立。現在、同種造血幹細胞と骨髄のバンクとしては世界最大級であり、ドイツでドナーから提供された幹細胞の55%を保有している。同社は遺伝子治療製品を製造する企業へのフルサービスプロバイダーとして、ドレスデンにあるGEMoaB社と共同で独自のCAR-T細胞と二重特異性抗体を開発している。Cellex社の創立者であるゲラルド・エニンゲル博士は、工場のオープニングセレモニーで「がん細胞を標的とするCAR-T細胞は、今日の医学において最も効果的な治療法だ。しかし、従来のCAR-T細胞にはサイトカイン(標的細胞にシグナルを伝達し、細胞の増殖、分化、細胞死、機能発現など多様な細胞応答を引き起こすタンパク質)の過剰放出や耐性の獲得など、様々なリスクがある。我が社とGEMoaB社の共同研究を継続し、新たな細胞製造プラットフォーム開発に力を注ぐ」と述べた。
    Cellex Opens New Plant to Manufacture Innovative Cell Therapy Products for Cancer

  • ・FDA、幻覚キノコ成分をうつ病のブレイクスルーセラピーに指定
  •  幻覚キノコ(マジックマッシュルーム)に含有される活性成分「シロシビン」。この成分がうつ病に対する「ブレイクスルーセラピー」として、2年連続で米食品医薬品局(FDA)に指定された。ブレイクスルーセラピーとは、重篤な、あるいは生命に関わる疾患に関する薬剤の開発・審査の促進を目的としたFDAの制度である。この指定により、承認までの期間を短縮するためにFDAに開発・申請計画の相談をしたり、審査資料の段階的提出・審査制度を利用したりすることが可能になる。

     ブレイクスルーセラピーに指定されるには、臨床的に重要な評価項目を既存の治療法と比較し、当該薬剤の顕著な改善を示す予備的臨床エビデンスが必要であり、医学的な裏付けが求められる。Finanicial Postの記事には、「シロシビンを含む幻覚キノコには、がん患者の不安や抑うつを迅速に、継続的に緩和する効果がある」と紹介され、大麻などの幻覚剤を使った製品を扱うビジネスにとって、機会創出の大きなチャンスとなる。

     米Flourish Mushroom Labs社は、4種のオーガニックマッシュルーム珈琲を消費者に飲んでもらう試験を開始すると発表。研究所では、幻覚キノコの活性化成分の効果と安全性を調査したうえで成分を厳選し、1カ月かけて100人の被験者の試飲結果を収集する。結果が良ければ、試験を次のステージへと進める計画だ。

     ブレンドに使用するのは、ヤマブシタケや霊芝、カワラタケ、冬虫夏草属、カバノアナタケなど、古来中国の漢方やアーユルベーダ医学にも取り入れられているキノコ類だ。ヤマブシタケは、記憶、集中力、脳機能を高めるパワフルな脳の栄養食品として知られる。霊芝は、免疫システムの強化とストレス緩和、カワラタケは腸内細菌のバランスを整える抗酸化物質として効果がある。冬虫夏草属は、運動能力の向上と健康長寿、カバノアナタケは、ロシアや北ヨーロッパで自然治癒力増進に利用されている。ブレイクスルーセラピーとして今後、幻覚キノコが、がんや糖尿病、心臓病の治療や、血糖値やコレステロール値を下げる治療などに本格的に利用されるようになる。
    US FDA Breakthrough Therapy Designation for Mushrooms Creating Big Opportunity

  • ・他人からの造血幹細胞移植、10万人目が第二の誕生日を迎える
  •  他人の造血幹細胞移植を推進するグローバルリーダーである、米国NPO法人BeTheMatch社は、1987年の全米骨髄バンクNational Marrow Donor Program創立以来、10万件目となる移植を成功させたと発表。創立以降25年の間に5万件の移植を行い、その後7年間で同数の移植を実施、年々案件が増加している。白血病や鎌状赤血球症、その他の致命的な血液の病気には、遺伝子が合致するドナーからの造血幹細胞を患者に移植する治療が有効である。患者にとっては、異常な血液細胞を健康な細胞と入れ替え、新たに血液を作り出す幹細胞に生まれ変わる移植の日は、「第二の誕生日」となる。

     BeTheMatch社CEOのC・ランドル・ミルズ氏は、「私たちは、造血幹細胞のドナーを募って移植を必要とする患者に届け、一世代前には実現不可能であった、全くの他人同士をつなぐ橋渡しという重要な役割を担っている。患者が愛する家族とより長い時間を一緒に過ごしながら、人生のミッションにチャレンジするチャンスを提供できる。この貴重なプレゼントは、目には見えないが、何よりも大切なものだ」と語る。BeTheMatch社は創業32年目を迎え、誰かの命を助けたいと願う2000万人のドナーが登録する世界最大の登録バンクに成長。近親者と他人の両方からの造血幹細胞移植を希望する患者の数は増加傾向にあり、次の10万件目の移植も、恐らく早い段階で達成できるであろうと期待される。

     BeTheMatch社は、患者の人種、社会的地位、居住地域の垣根を取り払い、誰もが細胞治療に手が届く世界を目指す。ほとんどの場合、人種が同じであるドナーから移植を受けることになるが、誰もが平等にドナーを見つけることができるわけではない。米国でドナーが見つかる確率は、白人は77%、アジア系とヒスパニック系の患者は50%以下であり、アフリカ系米国人は、23%である。18歳から44歳までのドナー希望者は、簡単な口腔粘膜検体採取を受けた後、無料でBeTheMatch社にドナー登録できる。登録者は430人中1人の割合で、実際に細胞ドナーとなることができるという。

     BeTheMatchは、多様なコミュニティーから若いドナーの登録が増えるよう呼び掛けを続けている。
    Be The Match® Celebrates 100,000th Re-Birthday