米Anatomage社CEOのジャック・チョイ氏が、かつて「TEDカンファレンス」で、革新的なデジタル解剖台「アナトマージテーブル(Anatomage Table)」を実演で紹介し、次世代型解剖学として、大きな話題となりました。アナトマージテーブルとは、研修医が、献体によるものと同様の解剖学習を体験できる、バーチャルな解剖台です。従来の死体解剖実習は高額なコストがかかるため、解剖学の授業といえばほとんどが座学で行われてきました。アナトマージテーブルの開発により、医学生は超高画質3Dで等身大のディスプレーを使い、人体をワンタッチで切開・復元し、自分の手を動かしながら生体構造をよりリアルに学ぶことができます。今回、Anatomage社は、デジタル心臓を本物そっくりに鼓動させる新たなテクノロジーを発表し、アナトマージテーブルの新バージョン7に搭載するそうです。医療の基本といわれる解剖学が進化し、様々な分野の医療イノベーションを支えます。


以下では、2019年12月16~20日に海外の企業・大学・研究機関・米食品医薬品局(FDA)等が配信したプレスリリースの中から、編集部がピックアップしたものを【ビジネス】【プロダクト/サービス】【要素技術】に分類しました。各項目をクリックすると、それぞれのプレスリリース(ウェブサイトやPDFなど)に移動します。

【ビジネス】

  • ・一度死んだ「心臓」の鼓動を生き返らせるデジタルテクノロジー
  •  一度死んだ心臓を電子的に生き返らせることに成功した企業がある。米国の3D医療テクノロジー会社のAnatomage社だ。もともと同社は、「アナトマージテーブル」と呼ばれるバーチャルな解剖台を開発し、解剖に利用する「デジタル心臓」を提供してきた。デジタル心臓とは、保存された本物の心臓から精巧にデザインされたもので、解剖学の研究用に使用される。デジタル心臓は、細部にまでこだわってセグメント化された2500以上の解剖学的構造を持つ。完全な心血管システムが組み込まれ、精密にコピーされた動脈、静脈、心房、弁、心伝導機能がそろっている。

     この3Dの心臓のCTのデジタルモデリングと、本物の解剖データを組み合わせる革新的なテクノロジーにより、一度死んだ心臓をデジタルに再現し、生きていた頃と同じ生体機能サイクルで動かすことが可能となった。Anatomage社は、心臓のCT画像と統計データから心臓の4つの心房を予測、心臓の収縮期と拡張期のデジタルシミュレーションを行った。弁の動き、静脈のつながり、心臓の神経を正確に構築し、鼓動する心臓の中で本物そっくりに動かし、あたかも死んだ心臓に命が吹き込まれるのを体験できる。

     この新テクノロジーは、間もなくリリースされる予定の「アナトマージテーブル7」で使えるようになる。世界で初めて、デジタル心臓に、神経分布と心血管機能の生理的シミュレーションを施される。Anatomage社のデジタル心臓は、医学教育やデバイス開発、研究、トレーニングに活用される予定。CEOのジャック・チョイ氏は、「史上初めて、一度死んだ心臓の完全なデジタルシミュレーションが行われた。これは重要な一歩であり、今後動物実験や死体解剖に頼らずに、デジタルモデリングやシミュレーションによる高度な解剖学研究が可能になる」と語った。3D医療テクノロジーの新たな領域が切り開かれる。
    Anatomage Technology Revives Heart Beat of a Cadaver

  • ・間葉系幹細胞治療、認知症のブレイクスルーセラピーを目指す
  •  幹細胞テクノロジーを開発する米Longeveron社が、アルツハイマー病の第1相試験を完了したと発表した。この試験は、同社が独自開発した間葉系幹細胞「LMSC」を用い、中程度のアルツハイマー病患者への安全性と有効性の実証を目指す。間葉系幹細胞とは、骨芽細胞、脂肪細胞、筋細胞、軟骨細胞など、間葉系に属する細胞への分化能を持つとされる細胞で、骨や血管、心筋の再構築などの再生医療への応用が期待されている。

     アルツハイマー病は、認知症の中で最も多く見られる進行性の脳疾患であり、ゆっくりと記憶や思考能力が衰え、最終的には日常生活を行うことが不可能になる恐ろしい病である。米国では、現在死因の6番目となっており、アルツハイマー病の特効薬はない。病気を予防し、進行を抑え、症状を治す治療法はまだ承認されるところまで進んでいない。アルツハイマー病はβアミロイドタンパク質の沈着と神経原線維変化だけでなく、神経炎症、血管機能障害、神経変性が見られる複雑な病気であり、治療薬の成功確率が低いため、製薬会社の研究開発にとってハードルの高い領域である。

     Longeveron社のシニア研究員であり、本試験の責任者であるアンソニー・オリバ博士は、「LMSCは、神経変性障害を治療するメカニズムを複数備えており、アルツハイマー病治療の最有力候補だ。これまで動物と人を使った研究において、LMSCの強力な抗炎症性と再生促進能力は実証されてきており、アルツハイマー病にとって重要なアミロイドーシスを治療することが可能であることも分かっている」と語る。研究では今後、LMSC注入の安全性と耐久性を評価し、複数の認知機能評価ツール、QOL(生活の質)の評価、脳の磁気共鳴画像(MRI)を含むバイオマーカー分析によって、有効性を調査する。最終試験結果が発表されるのは2020年後半となる見込み。2050年までにアルツハイマー病患者は全世界で1.15億人以上に上ると推計されており、LMSCがブレイクスルーセラピーとなるか、期待が高まる。
    Longeveron LLC Announces Completion of Enrollment in Phase 1 Clinical Trial of Longeveron Allogeneic Mesenchymal Stem Cells (LMSCs) in Alzheimer's Disease

  • ・マレーシアの新オンライン医療プラットフォーム、処方薬を自宅へ配送
  •  マレーシアのGreat Eastern Takaful Berhad社が、マレーシア最大の医療コンサルティングオンラインプラットフォームを提供するDoctorOnCall社とパートナーシップを組み、2019年9月にスタートした自社のHarapanTrioキャンペーンの加入者向けに新たなサービス提供を開始する。どのようなサービスかというと、加入者は、資格を持った医師に無料でオンラインの医療相談ができ、処方された薬を自宅まで配送してもらえるという画期的なものだ。加入者は、医師からプロの医療アドバイスを受け、処方箋を発行してもらった後、DoctorOnCallを介して医療用医薬品を購入するという仕組みだ。しかも、追加費用は0円だという。

     DoctorOnCall社の共同創立者兼ディレクターであるハズワン・ナジブ氏は、「病院での診察の最も大きな課題は、待ち時間であり、平均40分は待たされる。単純なかぜやインフルエンザの診察がオンラインで受けられれば、待ち時間が減り、緊急性の高い患者により時間をかけられるようになる」と話す。2019年9月から12月31日までにHarapan Trio Comboプランに登録した加入者は、1年間無料でDoctorOnCallサービスを利用することができる。現在同サービスには毎月100万人がアクセスし、登録医師は100人以上、提携薬局は208社に上る。

     利用者は医師とチャットや通話、ビデオ通話で医療相談ができ、マレーシア国内どこでも医療用医薬品を配送してもらえる。診察のオンライン予約もできるこの新たなデジタルヘルスケア・プラットフォームの利用が、今後急拡大するであろう。
    Great Eastern Takaful Berhad partners DoctorOnCall to offer Harapan Trio customers revolutionary digital healthcare services

  • ・新たなカテーテル凍結治療で、心房細動治療にイノベーション
  •  凍結治療という療法がある。これは、生体の組織を凍結させると壊死する作用を利用した治療法であり、一般的に日本国内・欧米においてイボなどの凍結手術に用いられている。また、心房細動の発生源となる肺静脈入口部の焼灼治療にも使用される療法である。米Adagio Medical社は、慢性心房細動に対し、独自のiCLASと呼ばれる、超低温のインテリジェント持続焼灼システムを使用する凍結治療の試験を開始した。この試験は既に米食品医薬品局(FDA)に承認されており、ニュージャージー州のThe Valley病院で1人目の被験者に治療が行われた。米国でいよいよ医療機器を販売するに当たり、試験の次の段階としてFDAの市販前承認(PMA)を得る必要があるが、これは販売に必要な承認の中でも最も厳しい審査といわれている。今回の試験のデータが、機器を今後市場で販売できるかどうかを大きく左右する。

     iCLAS試験の責任者であるスニート・ミッタル医学博士は、「心房細動の治療は非常に難しい。この新たな凍結治療システムの利点としては、治療のターゲットとなる心房が右でも左でも同じカテーテルを使用できることや、3Dマッピングが不要なことなどが挙げられる」と語る。試験で使用する凍結治療用カテーテルは、心臓の右室と左室を分ける中隔と呼ばれる部分に1つの穴を空けるだけで処置ができるため効率がよい。また、気管挿管に使用する気管チューブ内に通すスタイレットが相互交換可能なため、どんな形状の病変にも対応できる点で優れている。現行の施術方法は時間がかかりすぎる上、成功率も低く、医療提供者の利益とならないことから、焼灼治療を必要とする患者のうち5%にしか治療が行われていないのが現状だ。

     Adagio Medical社は凍結治療にイノベーションを起こし、より多くの心房細動患者にカテーテルを用いた新たな治療を適用できることを目指す。
    Adagio Medical Announces First Patient Enrollment in its iCLAS™ U.S. IDE Clinical Trial Evaluating Ultra-Low Temperature Cryoablation for Persistent Atrial Fibrillation