ウォルナッツが腸内細菌を介して心臓病を予防

【要素技術】

  • ・太陽の光を浴びて脂肪細胞の燃焼を促進
  •  Fat cell、いわゆる脂肪細胞は、体の中から光を検知しているらしい。さらに、光に適切にさらされないと、脂肪細胞がおかしな行動を取り始めることが分かってきた。この驚くべき事実は、ネズミの体温調節について研究を行ってきた米国のシンシナティ小児病院の研究者によって雑誌『Cell Reports』で発表された。研究によると、2種類の脂肪細胞が光を浴びると連携し、他の全ての細胞のエネルギーとなる物質を作り出すことが分かった。しかし、近年の不健康な生活習慣により、この大事な代謝作用が阻害されているという。つまり、屋内で長時間過ごすことが細胞の健康を妨げている。

     発生生物学者で本論文の著者でもあるリチャード・ラング博士は、「人類は長い年月をかけて、太陽光を浴びながら進化してきた。オプシンと呼ばれる光を感知する遺伝子は、こうして発達してきた。しかし、最近は人工的な光の下で過ごす時間が長いため、太陽光から得られる光成分を十分に享受できていない」と説明する。ラング博士は、今までに120本以上の調査論文を発表しており、多くは眼の発達と眼以外の細胞に光がどのように作用するかがテーマだ。2019年4月に、未熟児の眼の発達に対する光の有効性、10月にはネズミの肌に含まれる光受容体が体内時計を調節することを突き止めた。

     博士は、「体の奥の組織にまで光が到達するという概念は、我々研究者にとって新たな発見だ。今回の脂肪細胞に関する論文は、光が人間の体にもたらす効果について、全く新しい視点を提供するきっかけとなる」と語る。光には、ガンマ線や紫外線など照射量が多過ぎると人間にとって害となるものもあるが、今回ラング博士と研究チームが焦点を当てたのは、光がもたらす健康的な作用だ。光は、衣服や動物の毛皮をすり抜け、体内に吸収されているのだ。Photons(光子)という光の基礎粒子は、外皮を通過した後、速度を緩めて体内に散らばり、各細胞の行動に影響を与えている。ネズミを使った研究では、寒さにさらされたネズミは震えと体内の脂肪燃焼を起こすことで、自らの体温を上げることが分かっている。しかし、この酸化作用は、太陽光に含まれる480ナノメートルのブルーライト成分が不足すると、うまく機能しない。

     私たちは夜でも光を浴び、不規則な仕事時間、時差などによって代謝異常を起こしやすい環境にいる。代謝異常が現代病として蔓延する中、「光療法」によってメタボ対策や糖尿病予防ができるようになるかもしれない。今後は、健康的な代謝にとって適切な光の量や、脂肪細胞の中のOPN3と呼ばれる遺伝子の欠乏が肥満に与える影響、また光療法を開始する最適な時期は幼児期なのか成人期なのかなどに焦点を絞り研究を進めていく計画だ。
    Fat Cells Can Sense Sunlight: Not Getting Enough Increases Metabolic Syndrome Risk

  • ・健康フード「ウォルナッツ」を食べて心臓病予防
  •  ウォルナッツ(クルミ)を、ただのおいしいおつまみだと勘違いしている人は多い。新たな研究により、実はウォルナッツには腸内細菌の中の善玉菌を育てる役割があり、これらの善玉菌が心臓病を防ぐ可能性が高いことが分かった。米国栄養学会が発行する雑誌『The Journal of Nutrition』には、「普段不健康なスナックを食べている人が、おやつをウォルナッツに変えるというシンプルな方法で食生活を改善することができる。1日に2~3オンスのウォルナッツを食べると、腸と心臓の健康につながる」と発表された。

     過去の研究からも、ウォルナッツを毎日食べるとコレステロール値と血圧値が下がることが分かっている。その原因は、腸管の細菌、いわゆる腸内フローラが変化することだと研究者は語る。ペンシルベニア州立大学の栄養学教授であるペニー・クリス・イーサトン氏は、「腸の健康が体の健康とどう関わっているかについて、様々な研究が進められている。私たちは、脂質やリポタンパク質などと合わせ、ウォルナッツの摂取がどのように心臓病予防につながるか知るために調査を進めてきた」と語る。

     研究には30歳から65歳までの42人の肥満患者が参加し、ウォルナッツを摂取するグループA、ウォルナッツを摂取せずに同量のαリノレン酸と高度不飽和脂肪酸を摂取するグループB、そしてウォルナッツを摂取せずに同量のオレイン酸を摂取するグループCの3つに分けて6週間試験を行った。結果として、ウォルナッツを摂取したグループAは腸壁を保護するロゼブリアや、血圧の変動を抑えるユーバクテリウムやブチリシコッカスという腸内細菌の数が増加した。自分の腸内細菌に積極的にウォルナッツを食べさせると、健康な腸内フローラを形成し、体に良い代謝物を生産することが分かった。これから、腸の健康だけでなく、ウォルナッツが血糖値にどのように影響を与えるかに関する研究も行われるそうだ。
    Walnuts may be good for the gut and help promote heart health

  • ・漢方薬ベルベリンに炎症性腸疾患を治癒する効果も
  •  岡山大学の研究チームが、berberine(ベルベリン)と呼ばれる昔ながらの中国の漢方薬を、消化管の炎症の治療に再活用する可能性について、電子ジャーナル『Scientific Reports』に発表した。ベルベリンとは、ミカン科やキンポウゲ科などの植物に含まれるベンジルイソキノリンアルカロイドの1種である。今回、岡山大学の高原政宏博士の研究チームが、中国で下痢や糖尿病の治療によく使われてきたベルベリンという漢方薬が、IBD(炎症性腸疾患)による腫れを改善する効果があることを突き止めた。

     IBDは、CD4+T細胞という消化器官の中にある特定の細胞の自己免疫的な機序が正しく機能しなくなることで発症する病気だ。炎症と腫れ、膨満感や痛みが症状として現れる。ベルベリンはターメリックなどの低木から抽出され、抗炎症作用があり、薬剤に匹敵する効能がある。また、CD4+T細胞を含む真核細胞の成長と生存を制御するタンパク質である「AMPK」を活性化することが分かっている。AMPK(AMPキナーゼ)とは、AMP活性化プロテインキナーゼと呼ばれる酵素の一種で、インスリンと同じ作用があることから、糖尿病治療に有効であるといわれている。また、がん細胞の増殖を抑える効果があることも分かってきており、がん治療への適用が話題となっている。このAMPKの特徴に目をつけた研究チームは、ベルベリンのIBDへの効用について研究を行った。

     研究では、大腸炎のネズミのCD4+T細胞を取り出し、ベルベリンを投与した。炎症が起きる原因は、CD4+Tがサイトカインと呼ばれる化学物質を放出することにある。取り出したCD4+T細胞のサイトカインの値は、最初は著しく高かったものの、べルべリンを投与して間もなく値は低下。この理由を探るため、研究チームは細胞のAMPKを人工的に操作し、AMPKの変化とサイトカインの値に直接的な関連があることを突き止めた。つまり、ベルベリンはCD4+T細胞によって起きる炎症を、AMPKに働き掛けることで抑制するのだ。研究は今後も続き、ベルベリンが腸内細菌にどのように作用するかが少しずつ明らかになるだろう。慢性大腸炎の細胞の中のAMPKを標的とする、新たなIBD治療の可能性が広がる。
    Okayama University Research: Herbal Medicines Can Treat Stomach Disorders

(タイトル部のImage:Photobank -stock.adobe.com)