中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルス(2019-nCoV)感染拡大を阻止するため、世界のヘルスケア機関・企業が取り組みを開始しています。カナダのMedicom社は、新型コロナウイルスを1分で死滅させる殺菌スプレーを販売。米国のInovio社は、ノルウェーの国際官民パートナーシップ機関CEPIから約10億円の助成金を受けて新型コロナウイルスワクチン「INO-4800」を開発、これから人への第1相試験が開始されます。中国は春節を迎え、観光シーズン真っただ中にあり、ウイルス感染の世界的な大流行(パンデミック)が懸念されています。新型ワクチン開発がウイルス拡大に追いつくか。ヘルスケア機関・企業によるイノベーションに世界が注目しています。


以下では、2020年1月20~24日に海外の企業・大学・研究機関・米食品医薬品局(FDA)等が配信したプレスリリースの中から、編集部がピックアップしたものを【ビジネス】【プロダクト/サービス】【要素技術】に分類しました。各項目をクリックすると、それぞれのプレスリリース(ウェブサイトやPDFなど)に移動します。

【ビジネス】

  • ・新型コロナウイルスを1分で死滅させる殺菌スプレー
  •  中国武漢で発生した新型コロナウイルス(2019-nCoV)感染の拡大を阻止するため、世界のヘルスケア機関や企業が取り組みを開始した。感染の予防には、個人レベルでできる対策と、ウイルス付着面の殺菌がカギとなる。カナダのMedicom社は、「ProSurface disinfectant」という殺菌剤の販売を開始した。新型コロナウイルスをたった1分で死滅させることが売りだ。シートとスプレーの両方が提供され、殺菌剤を塗布後、ウイルス付着面を60秒間湿ったままにしておくことで、既存の殺菌剤よりも早く効果を発揮する。その後、塗布面は自然乾燥させればよいそうだ。

     この殺菌製品は、Medicom社の最新アイテムだ。Medicom社は30年前、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染の広がりを防ぐために設立され、感染症予防グッズの開発に取り組んできた。今回のコロナウイルス感染拡大の危機に備え、米疾病対策センター(CDC)や世界保健機構(WHO)などはいち早く提言を行った。Medicom社はこれに応え、95%のフィルター機能を持つ医療用マスク「SafeBasics N95 respiratorマスク」やASTM規格で最も高い保護レベル3を提供する保護服「SafeMask」などの製品を打ち出した。

     その他に、現場で1人ひとりが使用できる隔離用のガウン、靴カバー、使い捨てジャケット、研究着などを「SafeWear」というブランドで出している。こういった個別保護用品は、武漢で発生した新型コロナウイルスのような細菌感染を予防するための必需品である。世界のどこで発生するか分からない新たな感染症に対し、適切な素材と最新のテクノロジーを準備し、イノベーションを繰り返すことがカギだ。世界を安全で健康な環境に変えるための挑戦は続く。
    Medicom ProSurface Disinfectant Kills Wuhan Coronavirus

  • ・新型コロナウイルスワクチン開発進む
  •  中国で感染が広がるコロナウイルス(2019-nCoV)を予防する新ワクチン開発が進められている。ノルウェーに本部を置くグローバルな官民パートナーシップ機関である感染症流行対策イノベーション連合(CEPI)が、米Inovio社に900万ドル(約9億8400万円)の助成金を提供した。新型コロナウイルスによる死者も出ており、感染者は百人単位で広がっている。Inovio社は、今回のウイルスの種類に適合する「INO-4800」というコロナウイルスワクチンを使った、人を対象とした第1相試験をこれから開始する。これまでにもCEPIはInovio社に5600万ドル(約62億円)の助成金を提供し、1969年にナイジェリアで発生したラッサ熱や中東呼吸器症候群(MERS)など、コロナウイルス由来の感染症のワクチン開発を行ってきた実績を持つ。

     Inovio社のDNA医療プラットフォームは、パンデミック(世界的な流行)を引き起こす可能性を持つ強力な感染症を防ぐためのワクチン開発には打ってつけであり、高いワクチン開発技術には定評がある。MERSワクチン用に開発された「INO-4700」はこれから第2相試験を開始するところだ。医学雑誌『Lancet Infectious Diseases』には、Inovio社が行ったMERS-CoVワクチンの第1相ワクチン試験の結果が発表された。被験者の95%に高い抗体反応、90%にはT細胞の広範囲な反応が見られた。また、免疫反応はワクチン接種後60週間維持されたという結果が出た。

     CEPIのCEOリチャード・ハチェット氏は「2019-nCoVウイルスのグローバルな拡大に対して世界が結束し、素早く対策を出して感染症を撲滅しなければならない」として、Inovio社の迅速なワクチン開発への支援を表明した。Inovio社は、ジカ熱の大流行が発生した際、パートナー企業と共同で史上最速の7カ月というスピードで臨床試験を開始した。ハチェット氏はコロナウイルスの感染を迅速にくい止めるべく、さらにこの記録を塗り替えると意気込みを見せる。ウイルスとのスピード競争に医療テクノロジーが勝ち続けなければならない。
    Inovio Selected by CEPI to Develop Vaccine Against New Coronavirus

  • ・がん細胞を直接死滅させるT細胞の活用と課題
  •  T細胞がリンパ球(白血球)のサブセットであり、体の免疫系統の主要な役割を担うことは広く知られるようになった。今回、新たな研究により、ヘルパー細胞ががんの腫瘍をやっつけることが実証された。多くのバイオテク企業が、血液のがんを治す新たな治療法を模索中だ。中でも米Aethlon Medical社は、健康と疾病予防の世界的なニーズに応えるため、積極的に製品開発を行ってきた。同社の「Aethlon Hemopurifier」という免疫治療用デバイスは、今はまだ研究段階だが、循環器系統からエクソソームや死に至る細菌類を除去することができる。また、「Tausome」は慢性外傷性脳症を診断する際に用いるエクソソーム・バイオマーカー候補として、現在開発中の製品だ。

     人間の体の中の免疫細胞のサブセットががん細胞を死滅させることが、がん治療の鍵を握るのではないかといわれている。免疫療法では、「ヘルパー」や「司令塔」と呼ばれるCD4+T細胞が「細胞毒性」を持つように活性化し、がん細胞を直接攻撃してやっつけることが既に証明されている。University College Londonの研究チームは、分子と細胞のメカニズムに着目し、ネズミを使った免疫療法の実験を行った。その中で、T細胞の「成長因子」であるインターロイキン2(IL-2)と、「複写因子」であるBlimp-1がCD4+T細胞のキラー細胞としての活動をスタートすることが分かった。

     T細胞は、人工的にがんを攻撃して死滅するように改造することが可能だ。T細胞は縦横無尽に体内を動き回り、ダメージを受けた細胞を特定してやっつけてくれる。課題は、がん細胞はもともと体の細胞であるため、T細胞がその存在に気が付かないことが多い点だ。T細胞にどのようにして指示を与えるかが大きな課題となっている。Aethlon社のHemopurifierは、がんを誘発するエクソソームを除去するだけでなく、化学療法や免疫療法、標的因子とのシナジー効果がある点を高く評価されている。2014年には『Time』誌の発明品トップ25に選出され、2018年には National Cancer Instituteに認められ、助成金を取得した。2019年12月中旬には500万ドル(約5億4600万円)の公募をクローズしたばかりで、さらなる製品拡大と新規市場開拓を目指す。今後注目されるのは、Blimp-1を使った新たな個別化細胞治療だという。
    New Study Indicates 'Helper' Cells May Kill Cancerous Tumors

  • ・中国のAIヘルスケア女性起業家、ダボス会議2020で登壇
  •  中国のAI(人工知能)ヘルスケアのトップ企業であるYiduCloud社の女性設立者、そして会長でもあるゴン・ルジン氏が1月21日から24日までスイス・ダボスで開催された世界経済フォーラム(WEF)の第50回年次総会に出席した。およそ3000人の著名人が政治、ビジネス、学術界より集い、今回のテーマである「持続可能で結束した世界」について議論した。ルジン氏が参加したパネルディスカッションは「健康とヘルスケアシステムの未来」について。このパネルの他の登壇者は、国連事務次長であり国連合同エイズ計画(UNIAIDS)の事務局長であるウィニー・ビヤニマ氏、武田薬品工業の社長兼CEOであるクリストフ・ウエバー氏、インドのApollo Hospital Enterpriseの副会長であるショバナ・カミネニ氏であった。

     世界は急速な高齢化を迎えている。中華人民共和国人力資源社会保障部の予測によると、2035年末には高齢者の総数は4億人に達するそうだ。このグループに対して、高品質で低価格のヘルスケアサービスを提供することが、世界の課題となっている。ルジン氏は世界経済フォーラムで、2019年の若手グローバルリーダーに指名されており、パネルディスカッションでは「ヘルスケアがより多くの人にとって、当たり前に手に届くものとなるためには、インフラの整備が必要だ」と語った。

     AI、医療データ技術の活用により、薬品開発や臨床治療は急速に発達し、臨床試験や患者管理の効率化も進んでいる。YiduCloud社は、自社のデータ処理とアプリケーション・プラットフォームを活用し、医療施設や製薬会社の事業の品質と効率を向上させるソリューション提供。AIによる持続可能なヘルスケアシステムの構築を目指す。
    YiduCloud founder, Gong Rujing addresses on shaping the future of health and healthcare at Davos 2020

CTデータから骨折リスクを計算するアルゴリズム開発

【プロダクト/サービス】

  • ・痛みをゼロにする新脊髄刺激デバイス
  •  米国オハイオ州にあるバイオテクノロジー企業Soin Neuroscience社は、慢性的な疼痛を和らげる、新たな脊髄刺激デバイスを開発し、臨床試験を開始した。同社の設立者であるアモル・ソイン博士は、「慢性的な疼痛を患う患者を治療する、新たなプログラムにワクワクしている。既存のスタンダードを上回る効果に期待している」と意欲を示す。異常を来した神経機能に対し、微弱な電気刺激を行うことで症状の改善を図る治療は「ニューロモデュレーション」と呼ばれ、パーキンソン病や難治性の疼痛の新たな治療法として注目されている。

     Soin Neuroscience社のこの医療デバイスは、脊柱の中の硬膜外腔という部位に、「電極リード」と呼ばれる電気ワイヤーを植え込んで電気刺激を与え、患者の痛みを和らげる脊髄刺激療法(SCS)に使用される。試験では複数の患者がデバイスを試し、効果を実感したと語る。その中の1人、メルビンさんは、過去に別の脊髄刺激デバイスを試した時は効き目を感じなかったが、今回のSoin Neuroscience社の新規デバイスを使ってみたところ、痛みのスケールスコアが10点中0~2点のレベルまで軽減されたと語る。また、今まで痛くてできなかった長時間の立ち姿勢が可能になったという。その他にもロビンさんは、試験の最中に痛みのスコアが0点まで下がるのを経験し、「今まで治療のために背中に注射を打っていたが、それに比べるとこのデバイスは非常に快適だ」と語る。

     まだ試験は始まったばかりではあるものの、ソイン博士は「痛みを抱える患者にとって素晴らしい結果が出そうだ。我々の新たなデバイスは、体の神経の情報伝達メカニズムに合わせて設計されている」と、確かな手応えを示す。このデバイスはまだ米食品医薬品局(FDA)に承認されておらず、商用化はこれからだ。同社はこれまで様々な痛み止め薬品開発に成功してきており、今回のニューロモデュレーションデバイスは、依存性の高いオピオイド不要の新たな製品分野開拓につながる。
    Soin Neuroscience Develops A New Spinal Cord Stimulator to Treat Chronic Pain

  • ・いつものCT画像で骨粗鬆症性骨折リスク分析
  •  イスラエルのZebra Medical Vision社とClalit Health Services社が共同研究を行い、患者の既存のCTデータから、将来骨粗鬆症性の骨折が起きるリスクを計算するアルゴリズムを開発した。事前にリスクが分かれば、患者は予防治療を早期に開始することが可能になる。このアルゴリズムが今、世界中のヘルスケアプロバイダーから注目を集めている。

     本アルゴリズムの利点は、他の目的のために取得したCTデータを使って、骨密度や圧迫骨折の兆候を計測することができる点だ。データは既に手元にあるため、追加の撮影も放射線照射も不要だ。Zebra Medical Vision社の骨密度評価技術がClalit社の研究チームの精密な骨折リスク予測技術と組み合わさり、AI(人工知能)を活用した骨折リスク計算ができる仕組みだ。現在、骨折リスクを評価するツールとして最もよく知られているのは「FRAX」であるが、今回開発された新たなアルゴリズムの精度の方が高い。また、FRAXを利用するには多くの医療データが必要なため、利用を広げにくいという課題があった。

     米国では50歳以上の女性のうち3人に1人、男性は5人に1人が骨粗鬆症性の骨折を経験するといわれている。腰の骨の骨折後1年以内に死亡する確率は20%以上と高い。さらに、年間およそ180億ドル(約1.96兆円)が骨粗鬆症に関連する医療費に使われ、大きな財政負担となっている。骨粗鬆症の検査を受ける人の数は少なく、正しい診断も治療も行き届いていないのが現状だ。分析能力とビッグデータ技術を駆使して健康増進につなげることができれば、AIの医療活用の良い例となるだろう。
    New Study Published on Nature Medicine Unveils the Power of AI in Predicting Osteoporotic Fractures

  • ・難治性白血病の原因物質を阻害する新薬
  •  米国とオーストラリアが国際的なコラボ研究を行い、リスクの高い白血病を治療する新薬を発表した。米Oncotartis社とオーストラリアChildren’s Cancer Instituteは血液悪性腫瘍の専門誌『Leukemia』において、2つの研究論文を掲載した。テーマは、Oncotartis社の新薬候補である「OT-82」について。血液悪性腫瘍は、成人、子供ともに従来の治療に抵抗性があり、死に至る確率の高い病気である。今回、米国のバッファローと豪州のシドニーの2カ所で行われた共同研究で、これまで治療が不可能といわれてきた血液悪性腫瘍患者に対し、効果の高い新たな新薬の可能性が打ち出された。

     1つ目の文書には、難治性白血病やリンパ腫に対するOT-82の作用のメカニズム、中毒性、臨床前の効能について書かれている。ニコチンアミド・ジヌクレオチド(NAD)という、細胞の中にある代謝とストレスのメカニズムの中の重要な部分があるが、その値の上昇が、体の造血システムの悪性腫瘍と深い関わりがあることが特定された。OT-82には、NAMPTという酵素を阻害する物質が含まれ、NADの生成を抑制する効果がある。OT-82は現在米国で第1相試験を実施中だ。

     二つ目の文書には、Children’s Cancer Instituteが行った、世界有数の小児白血病研究について書かれ、従来の小児白血病の治療とOT-82の効果を比較している。OT-82は単体でも治療効果が認められるが、従来の治療と合わせることでさらに効果が高まることが分かっている。成人のみに実施された臨床試験の成功を受け、難治性白血病を患う子供を対象とした試験がこれから行われる見通しだ。Oncotartis社のチーフサイエンティフィック・オフィサーであるアンドレ・グドクフ博士は、「NAMPTを阻害する物質が、がんだけでなく、血液の悪性腫瘍にも有効であることが初めて判明した。今後OT-82を使った治療の可能性に期待している」と語る。難治性の小児白血病患者の治療の選択肢はまだ少なく、新たな治療が早急に求められている。化学療法と比較し、副作用が少ない点でも、OT-82の意義は大きいとして、治療の実現が待たれる。
    International Research Collaboration Reveals Promising Drug Candidate for Treatment of Blood Cancers

ウォルナッツが腸内細菌を介して心臓病を予防

【要素技術】

  • ・太陽の光を浴びて脂肪細胞の燃焼を促進
  •  Fat cell、いわゆる脂肪細胞は、体の中から光を検知しているらしい。さらに、光に適切にさらされないと、脂肪細胞がおかしな行動を取り始めることが分かってきた。この驚くべき事実は、ネズミの体温調節について研究を行ってきた米国のシンシナティ小児病院の研究者によって雑誌『Cell Reports』で発表された。研究によると、2種類の脂肪細胞が光を浴びると連携し、他の全ての細胞のエネルギーとなる物質を作り出すことが分かった。しかし、近年の不健康な生活習慣により、この大事な代謝作用が阻害されているという。つまり、屋内で長時間過ごすことが細胞の健康を妨げている。

     発生生物学者で本論文の著者でもあるリチャード・ラング博士は、「人類は長い年月をかけて、太陽光を浴びながら進化してきた。オプシンと呼ばれる光を感知する遺伝子は、こうして発達してきた。しかし、最近は人工的な光の下で過ごす時間が長いため、太陽光から得られる光成分を十分に享受できていない」と説明する。ラング博士は、今までに120本以上の調査論文を発表しており、多くは眼の発達と眼以外の細胞に光がどのように作用するかがテーマだ。2019年4月に、未熟児の眼の発達に対する光の有効性、10月にはネズミの肌に含まれる光受容体が体内時計を調節することを突き止めた。

     博士は、「体の奥の組織にまで光が到達するという概念は、我々研究者にとって新たな発見だ。今回の脂肪細胞に関する論文は、光が人間の体にもたらす効果について、全く新しい視点を提供するきっかけとなる」と語る。光には、ガンマ線や紫外線など照射量が多過ぎると人間にとって害となるものもあるが、今回ラング博士と研究チームが焦点を当てたのは、光がもたらす健康的な作用だ。光は、衣服や動物の毛皮をすり抜け、体内に吸収されているのだ。Photons(光子)という光の基礎粒子は、外皮を通過した後、速度を緩めて体内に散らばり、各細胞の行動に影響を与えている。ネズミを使った研究では、寒さにさらされたネズミは震えと体内の脂肪燃焼を起こすことで、自らの体温を上げることが分かっている。しかし、この酸化作用は、太陽光に含まれる480ナノメートルのブルーライト成分が不足すると、うまく機能しない。

     私たちは夜でも光を浴び、不規則な仕事時間、時差などによって代謝異常を起こしやすい環境にいる。代謝異常が現代病として蔓延する中、「光療法」によってメタボ対策や糖尿病予防ができるようになるかもしれない。今後は、健康的な代謝にとって適切な光の量や、脂肪細胞の中のOPN3と呼ばれる遺伝子の欠乏が肥満に与える影響、また光療法を開始する最適な時期は幼児期なのか成人期なのかなどに焦点を絞り研究を進めていく計画だ。
    Fat Cells Can Sense Sunlight: Not Getting Enough Increases Metabolic Syndrome Risk

  • ・健康フード「ウォルナッツ」を食べて心臓病予防
  •  ウォルナッツ(クルミ)を、ただのおいしいおつまみだと勘違いしている人は多い。新たな研究により、実はウォルナッツには腸内細菌の中の善玉菌を育てる役割があり、これらの善玉菌が心臓病を防ぐ可能性が高いことが分かった。米国栄養学会が発行する雑誌『The Journal of Nutrition』には、「普段不健康なスナックを食べている人が、おやつをウォルナッツに変えるというシンプルな方法で食生活を改善することができる。1日に2~3オンスのウォルナッツを食べると、腸と心臓の健康につながる」と発表された。

     過去の研究からも、ウォルナッツを毎日食べるとコレステロール値と血圧値が下がることが分かっている。その原因は、腸管の細菌、いわゆる腸内フローラが変化することだと研究者は語る。ペンシルベニア州立大学の栄養学教授であるペニー・クリス・イーサトン氏は、「腸の健康が体の健康とどう関わっているかについて、様々な研究が進められている。私たちは、脂質やリポタンパク質などと合わせ、ウォルナッツの摂取がどのように心臓病予防につながるか知るために調査を進めてきた」と語る。

     研究には30歳から65歳までの42人の肥満患者が参加し、ウォルナッツを摂取するグループA、ウォルナッツを摂取せずに同量のαリノレン酸と高度不飽和脂肪酸を摂取するグループB、そしてウォルナッツを摂取せずに同量のオレイン酸を摂取するグループCの3つに分けて6週間試験を行った。結果として、ウォルナッツを摂取したグループAは腸壁を保護するロゼブリアや、血圧の変動を抑えるユーバクテリウムやブチリシコッカスという腸内細菌の数が増加した。自分の腸内細菌に積極的にウォルナッツを食べさせると、健康な腸内フローラを形成し、体に良い代謝物を生産することが分かった。これから、腸の健康だけでなく、ウォルナッツが血糖値にどのように影響を与えるかに関する研究も行われるそうだ。
    Walnuts may be good for the gut and help promote heart health

  • ・漢方薬ベルベリンに炎症性腸疾患を治癒する効果も
  •  岡山大学の研究チームが、berberine(ベルベリン)と呼ばれる昔ながらの中国の漢方薬を、消化管の炎症の治療に再活用する可能性について、電子ジャーナル『Scientific Reports』に発表した。ベルベリンとは、ミカン科やキンポウゲ科などの植物に含まれるベンジルイソキノリンアルカロイドの1種である。今回、岡山大学の高原政宏博士の研究チームが、中国で下痢や糖尿病の治療によく使われてきたベルベリンという漢方薬が、IBD(炎症性腸疾患)による腫れを改善する効果があることを突き止めた。

     IBDは、CD4+T細胞という消化器官の中にある特定の細胞の自己免疫的な機序が正しく機能しなくなることで発症する病気だ。炎症と腫れ、膨満感や痛みが症状として現れる。ベルベリンはターメリックなどの低木から抽出され、抗炎症作用があり、薬剤に匹敵する効能がある。また、CD4+T細胞を含む真核細胞の成長と生存を制御するタンパク質である「AMPK」を活性化することが分かっている。AMPK(AMPキナーゼ)とは、AMP活性化プロテインキナーゼと呼ばれる酵素の一種で、インスリンと同じ作用があることから、糖尿病治療に有効であるといわれている。また、がん細胞の増殖を抑える効果があることも分かってきており、がん治療への適用が話題となっている。このAMPKの特徴に目をつけた研究チームは、ベルベリンのIBDへの効用について研究を行った。

     研究では、大腸炎のネズミのCD4+T細胞を取り出し、ベルベリンを投与した。炎症が起きる原因は、CD4+Tがサイトカインと呼ばれる化学物質を放出することにある。取り出したCD4+T細胞のサイトカインの値は、最初は著しく高かったものの、べルべリンを投与して間もなく値は低下。この理由を探るため、研究チームは細胞のAMPKを人工的に操作し、AMPKの変化とサイトカインの値に直接的な関連があることを突き止めた。つまり、ベルベリンはCD4+T細胞によって起きる炎症を、AMPKに働き掛けることで抑制するのだ。研究は今後も続き、ベルベリンが腸内細菌にどのように作用するかが少しずつ明らかになるだろう。慢性大腸炎の細胞の中のAMPKを標的とする、新たなIBD治療の可能性が広がる。
    Okayama University Research: Herbal Medicines Can Treat Stomach Disorders

(タイトル部のImage:Photobank -stock.adobe.com)