CRISPR/Cas9と呼ばれる遺伝子編集技術によって、腫瘍を攻撃する“デザイナー”免疫細胞を作り出すことに成功したとする研究結果を、米ペンシルベニア大学のCarl June氏らが「Science」2月6日オンライン版で報告した。米国でCRISPR/Cas9による遺伝子編集技術をヒトで試した初めての研究で、June 氏らは「がん治療でのCRISPR/Cas9利用に向けた第一歩」としている。

 CRISPR/Cas9は細胞内のDNAの一部を切り取ること、損傷遺伝子の修復、置換などを可能にする技術である。科学者たちは長年、CRISPR/Cas9の開発と研究を実験室で行ってきた。その目的の1つは、さまざまな疾患の根底にある遺伝学の解明を進めることにあるが、ゴールは、ある特定の遺伝子変異に起因する疾患を治療すること、またがんに対してなら、遺伝子操作により免疫システムを武装させてがん細胞を攻撃させることである。

 今回の研究の目的は、この技術の安全性と実現可能性を検証することだった。研究では、多発性骨髄腫などのがん患者3人からT細胞を取り出し、CRISPR/Cas9を利用して3つの遺伝子(TRAC、TRBC、PDCD1)を除去した。次いで、レンチウイルスを使って、がん特異的な合成T細胞受容体を導入した。この受容体を持つT細胞は、がん細胞が持つNY-ESO-1と呼ばれる抗原を標的にするようになる。その後、このT細胞を患者の体内に戻した。

 過去の研究では、こうした改変細胞の生存期間は概して1週間足らずと報告されているが、この研究では、最長で9カ月間、生き延びていることが確認された。また、T細胞を患者の体内に戻してから数カ月後に患者の血液を採取し、T細胞を分離したところ、これらの細胞にがん細胞を死滅させる力がまだ残っていることがシャーレの中で確認されたという。ただ、3人ともがんが進行し、一人は死亡、残る2人は別の治療を受けている。

 今回の報告を受けて、米ニューヨーク大学ランゴン・ヘルス、パールマッターがんセンターのCatherine Diefenbach氏は、「今回報告されたのは、がん細胞を認識できるようにT細胞を操作する新たな技術であり、大変興味深い。ただし、この研究で分かったのは、患者にこれらの細胞を注入することが可能であり、健康への悪影響も見られなかったということだけだ」と指摘している。