新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の特効薬が待たれる中、米国の製薬企業は世界保健機関(WHO)の治療薬候補リストにある1剤を、規制当局の追加承認が得られ次第、4月中旬にも販売を開始すると発表しました。また、病院へ行かなくても、自宅で手軽にできるCOVID-19スマホ迅速診断テストが米国で2カ月後に提供される予定です。期待されるワクチン開発の方は、クラウド型HPCプラットフォームが無償提供され、世界中の研究者の知見を結集し、ビッグコンピュートによる遺伝子解析が一気に加速します。


以下では、2020年3月16~20日に海外の企業・大学・研究機関・米食品医薬品局(FDA)等が配信したプレスリリースの中から、編集部がピックアップしたものを【ビジネス】【プロダクト/サービス】【要素技術】に分類しました。各項目をクリックすると、それぞれのプレスリリース(ウェブサイトやPDFなど)に移動します。

【ビジネス】

  • ・COVID-19の治療薬候補、4月中旬提供開始へ
  •  米ペンシルベニア州に本社を置くグローバル製薬企業Mylan社は、自社で製造するヒドロキシクロロキン硫酸塩を主成分とする医薬品の製造を再開した。この医薬品は、マラリアや全身性・皮膚エリテマトーデス、関節リウマチの治療薬として米食品医薬品局(FDA)から承認されており、COVID-19の治療薬候補としてWHOのリストに挙げられているものだ。

     同社は、今後この医薬品の需要急増に対応するため、西バージニア州にある工場で製造を開始し、海外の拠点でも製造を数週間以内に始める予定だ。各国政府や保健機関と協力し、患者のニーズにすぐに応えることができるよう、準備を整える。

     Mylan社は4月中旬から薬の供給を開始する計画だ。同社の製造能力は高く、今手元にある原料だけで想定150万人以上の患者に5000万錠を提供可能だという。このCOVID-19治療薬候補の使用を開始するにはFDAの追加承認やその他の規制当局のガイダンスが必要であり、現在正式な承認が下りるのを待っているところだ。

     Mylan社は既に世界165カ国と地域で7500種類以上の医薬品を販売しており、特に同社が提供する抗レトロウイルス治療薬は、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)/AIDS(後天性免疫不全症候群)患者の40%に使用されているメジャー製品だ。いまだに解決されていない課題に革新的なソリューションを提供し、「簡単な解決策ではなく、正しい解決策を」をモットーに、危機を乗り越えるためにグローバルなリーダーシップを発揮する。
    Mylan Ramps Up U.S. Manufacturing of Hydroxychloroquine Sulfate Tablets to Meet Potential COVID-19 Patient Needs

  • ・スマホを使い15分でできるCOVID-19遠隔診断テスト
  •  スマートフォンを使用して在宅で簡単にできる診断テストを開発する米Scanwell Health社が、中国Innovita社の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の迅速血清テストの専売権を獲得した。診断テストは、Scanwell社のヘルスアプリを使用し、15分でできる。テストを受けると数時間後には、医師や看護師から診断結果と対策が提供される仕組みだ。わざわざ病院へ行く手間を省くことで、無症状の新型コロナウイルス感染者も手軽にテストが受けられるようになる。より多くの感染者を検出し、効果的に隔離を行い、ウイルス拡大を阻止することができる。

    SARS-CoV-2迅速診断テストアプリ(出所:Scanwell Health社プレスリリース)

     このSARS-CoV-2迅速診断テストは、血液中の免疫グロブリンM(IgM)とIgGの2つの抗体を検出して表示する血清テストとして、中国のFDAに当たるNational Medical Products Administration(NMPA)が承認した唯一の検査キットである。IgMとIgG抗体が存在するか否かで、ウイルスにさらされているかどうかが確認できる。Innovita社の診断テストは中国では既に広く使用されており、感染管理に効果を発揮している。米国で3月16日にFDAがPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)検査以外の血清テストの使用を許可すると発表したのを受け、Scanwell社はテレヘルスパートナーである米Lemonaid Health社と共同で、本診断テストの米国での販売に舵を切った。

     Scanwell社CEOのステファン・チェン氏は「多くの医療機関が、COVID-19患者の診察と診断に苦心している。診断の黄金のスタンダードはPCR検査であるが、診断用の綿棒や試薬がだんだん不足するようになり、大勢の人を簡単にテストできる迅速血清テストが求められている」と語る。

     簡単に使い方を説明する。まず、患者はオンラインで質問票に回答し、Lemonaid社の医師に評価をしてもらう。症状と状況に応じて医師は米疾病対策センター(CDC)のガイドラインに沿って患者の迅速診断テストを注文し、翌日には患者の自宅にキットが届けられる。患者は自宅で検査を行い、Scanwell社のスマホアプリ経由で医師に結果を安全に送付する。検査に要する時間は15分。数時間後には、医師から診断結果を知らされ、フォローアップとして隔離や再診断、通院など適切な対応策についてアドバイスがもらえる。

     患者が在宅で診断を受けることができれば、他の人へウイルス感染を広げるリスクを減らすことができる。米国での販売は8週間以内に開始予定であり、1回70ドルで診断ができるようになる。より多くの人を支援するため、Scanwell社は、診断費用の支払いが困難な患者には、無料でサービスを提供するスキームも検討中だ。
    Scanwell Health to Launch First Clinical-Grade Rapid At-Home Test to Aid in COVID-19 Crisis

  • ・無償のクラウド型HPCプログラムでワクチン開発を加速
  •  企業向けビッグコンピュートのリーダーである米Rescale社はGoogle CloudとMicrosoft Azureと提携し、COVID-19の診断テストキットとワクチン開発に使用する新たなハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)プログラムを、各団体の開発チーム向けに無償提供すると発表した。ビッグコンピュートとは、大量のCPU(中央処理装置)およびメモリーリソースを協調的に使用することによりビジネス、科学、エンジニアリング向けの大規模なアプリケーションを実行するための幅広いツールとアプローチを指す。

     Rescale社のクラウド型HPCでは、設定時間が必要ないため、すぐにシミュレーションを実行したり、Googleクラウドプラットフォーム(GCP)とAzureのクラウドコンピューティング・リソースにRescale社のターンキープラットフォームを複合することができる。創薬のための作業に必要な新たなクラウド型HPC技術を無償で利用できれば、世界中の研究者が知識と技術を共有し、COVID-19ワクチン開発のスピードが一気に加速する。

     Microsoft社のバイスプレジデントのグレッグ・ムーア氏は「COVID-19対策は、時間との競争だ。研究者や機関が新たな治療薬とワクチンを一刻も早く開発できるよう、Azureスーパーコンピューターの活用機会を世界中に広げていきたい」と述べた。

     Rescale社のHPCプラットフォームには、大手ライフサイエンス企業のBionano社の遺伝子イメージングと生物情報学のツールが統合されており、従来のシークエンシングメソッドに比べて、ウイルスを攻撃する遺伝子の種類をより高度に解析できる。

     クラウド型HPCは拡張・カスタマイズ可能で、大規模なワークロードを短時間で高性能に処理する能力を備える。オンプレミス環境を持たないスタートアップ企業も、クラウドですぐに新薬やワクチン開発に無償で参加することができれば、新しいアイデアと技術が生かされる機会が増えるだろう。
    Rescale Partners with Google Cloud and Microsoft Azure to Accelerate the Race for COVID-19 Vaccine with Cloud Supercomputers for Researchers

マスクをしている顔を認証するソリューション

【プロダクト/サービス】

  • ・ハンズフリー3Dドアオープナーでウイルス予防
  •  3DプリンティングがCOVID-19の拡散防止の一手を担う。ベルギーの3DプリンティングカンパニーであるMaterialise社が、画期的なドアオープナーを発明した。ドアノブに直接触らなくても、腕だけでドアの開け閉めができる優れものだ。同社は、この新製品のデザインを世界中の3Dプリンティングコミュニティーに無料で公開し、誰でも3Dドアオープナーをプリンターで作成できるようにした。

     専門家によると、新型コロナウイルスは長期間、物体の表面の上で生き延びることができるという。特にウイルスの感染源となり得るのが、ドアノブだ。ドアは安全管理のために開けっ放しにしておけない場合が多く、特にドアノブは大勢の不特定多数の人が触る部分である。この3Dドアオープナーはペダルのような形をしており、普通のドアノブに引っ掛けるようにして装着できる。大がかりな工事も必要ない。これを使えば、手のひらでドアノブを触ることなく、誰でも腕だけでドアが開けられるように設計されている。

     公開された最初のデザインは円筒型のドアノブにつけるモデルだ。今後、Materialise社は別なデザインも追加予定だ。この3Dドアオープナーのアイデアが最初に出されたのは、従業員や訪問者をウイルスから保護するための対策検討会議中であり、その24時間後には革新的な製品が出来上がった。社内で使ってみたところ、その利便性と安全性が検証され、もっと世の中の役に立つのではないかと、デザインを無料でデジタル配信することに決まった。3Dプリンターさえあれば、誰でもデザインをダウンロードして、数時間でドアオープナーを作成できる点が魅力だ。

     2018年には世界で50万台もの3Dプリンターが販売された。新型コロナウイルス感染によって人の移動や製品の流通経路が制限される中、世界各地で3Dプリンターを使って地元で製品作りができるメリットは大きい。残念ながら3Dプリンターが手元にない場合は、Materialise社の世界最大の3Dプリンティング工場で生産した3Dドアオープナー2個セット(止めネジ付)を40ユーロで配送してもらうことも可能だ。手を使わずに、電車のつり革につかまれるような装置なども今後作られたら便利なのではないかと考えるのは、筆者だけだろうか。
    Materialise's 3D Printed Hands-Free Door Opener Eliminates Direct Contact With Door Handle

  • ・マスクで隠れている顔も認証するソリューション
  •  最新の顔認証技術がすごい。マスクで顔が半分隠れていても、人込みの中で、先端的顔認証アルゴリズムが正確に顔認証できる技術が今週、スペインHerta社によって販売開始される。以前より、同社は顔の一部分が見えない顔認証技術に取り組んでおり、今回の世界的な新型コロナウイルスの流行を受け、ソフトウエア開発を加速させた。

    Herta社の新しい顔認識ソリューション(出所:Herta社プレスリリース)

     Herta社のアルゴリズムはディープラーニング技術を使い、特にアイデンティティーを検証するようなタスクに対し、高い識別率を提供する。顔の大部分を隠していても、信頼性は非常に高い。人の顔の中で最もその人固有の特徴を示す部分は、眼の中にあるからだそうだ。

     このソフトウエアは、パスポートで搭乗者の入国審査を行う時に使用する自動身元識別システムにとって要となる技術を備える。写真撮影の際、搭乗者はマスクを外す必要がなくなるため、ウイルス感染を防ぐことができる上、マスクを付けたり外したりする時間の節約ができるため、長い列ができることも防げる。今後交通機関、病院、政府施設、イベント、スポーツスタジアム、ゲーム業界など、空港以外でも顔認証や入室制限などに、世界的に応用されそうだ。
    Herta Launches a New Technology That Allows Facial Identification Even With a Mask

  • ・マスクや殺菌剤のデジタル在庫管理・価格可視化
  •  ギリシャ。歴史上最も深刻で底の深い不況から再起したこの小さな国に今、データ、アナリティクス、コーディングの優秀な人材が集まっている。ギリシャのテクノロジー会社であるConvert Group社は、COVID-19で小売市場が直面する危機に対し、解決策を提示する。オンライン薬局やオンラインスーパーマーケットがウイルス感染対策商品の在庫切れや価格の高騰にあえぐ中、既にイタリア、スペイン、ギリシャではConvert Group社のプラットフォームが大成功を収めている。

     Convert Group社は、世界最大手のコンシューマー向けヘルスケア会社と日用消費財製造会社10社と提携している。RB社、Johnson & Johnson社、GSK社、Henkel社、Bayer社、ユニリーバ社、Nestle社、コカ・コーラ社など、ビッグネームばかり。また、3月16日には自社のSaaS(Software-as-a Service)モデルのインフラを導入し、製造会社が在庫管理をデジタルに可視化できるサービス提供を開始した。

     Convert Group社のgo-to-market(市場開拓)アプローチはAI(人工知能)とマシンラーニングを活用し、セットアップは5日で完了する。Convert Group社を設立したCEOのパナヨティス・ゲゼルリス氏は「日用消費財とコンシューマー向けヘルスケアのeコマース市場の2020年の市場価値は2800億ユーロ(約33兆4400億円)だ。殺菌剤やマスクなどのCOVID-19関連商品の需要は1週間で2000%増え、スパゲッティ、米、衛生製品は100%、サプリやビタミンは50%増えた」と述べた。

     製造会社は在庫管理と価格付けのデジタルモニタリングに苦心しており、商品価格は急騰している。Convert Group社のチームでは45人のデータ科学者、エンジニア、コンサルタント、アナリストがeコマースとオムニチャネル販売の改革に挑み、9カ国で事業拡大を狙う。
    Greek Company Solves the Global Issue of Availability of COVID-19 Sensitive Products in Online Pharmacies and Groceries

プライベートジェット機予約件数が27%増加

【要素技術】

  • ・イタリアの病院危機を救うテントの緊急治療施設
  •  イタリアのロンバルディア州のクレモナに、呼吸器管理部門を備えたSamaritan's Purse Emergency Field病院が開院した。クレモナと言えば、ストラディバリやグァルネリといった有名なバイオリン職人が暮らし、楽器作りで有名な小さな町として知られている。この地域の病院を訪れる患者数が収容能力を超えてしまったため、3月17日に新たに68床のベッドと付随設備が救援物資を運ぶ貨物飛行機DC-8で運び込まれた。急きょ建てられたテントの緊急治療施設は、設置後すぐにCOVID-19に感染した救急患者の受け入れを開始した。

    病院の隣に新設された緊急治療施設(出所:Samaritan's Purseプレスリリース)

     イタリアでは、COVID-19により何百人もの死者が出ており、クレモナ病院は、妊婦と小児科の診察をいったん全て中断し、新型コロナウイルス感染患者の診察を優先しないと治療が追いつかない状態だ。入院ベッドの数は足りず、集中治療室から生還した患者が1人もいない程自体はひっ迫している。イタリアは今、深刻な状況にある。新たに新設されたテントの緊急治療施設は、地元の病院のすぐ隣に設置された。20トン分の医療製品とともに緊急医療チームが現場を訪れた際、病院スタッフは「クレモナに希望をもたらした」と歓喜したという。

     Samaritan’s Purseは、米国に拠点を持つ、特定宗派に属さない、福音主義的組織である。世界保健機関(WHO)や米疾病対策センター(CDC)と連携し、救援活動を続けている。3月21日には、Samaritan’s PurseのDC-8機が2回目の医療製品の補給を行う予定だ。
    Samaritan's Purse Opens Emergency Field Hospital in Northern Italy; Bringing Life-Saving Surge Capacity

  • ・おうちヨガアプリ無料会員、30万人超える
  •  自宅でできるヨガアプリとして最高評価を獲得している米DownDog社が、生徒と先生向けのヘルス・フィットネスアプリを7月1日まで全て無料で提供すると発表した。DownDog社は、教育現場や地域のコミュニティーと協力して、全学年の生徒向けにデザインされた教材を提供。今後さらに多くの組織がアプリを利用できるようにする。

    教育現場や地域コミュニティーでヨガ(DownDog社プレスリリース)

     同社の共同創業者の1人であるカルロス・オーマチア氏は「学校や体育館が閉鎖されてから、私たちが提供するヘルス・フィットネスアプリの使用者の数が急激に増えている。無料会員数は30万人を超えた。これからできる限り無料会員を増やしていきたい」と述べた。同社が無料サービスを提供開してから2日間で、3万人以上の先生と生徒、4300校の学校がアプリの教育プログラムに入会した。サービスは、全ての国の先生と生徒向けに提供されている。

     この機会に狭い場所でも効率的に体を最大限に動かすことができるヨガを上手に取り入れて、COVID-19が終息して学校が開始するまでの間、オンラインで運動不足を解消しよう。
    Down Dog is Offering Free Access to All Its Health and Fitness Apps to Students and Teachers Until July 1, 2020

  • ・プライベートジェット機予約件数、3週間で27%増加
  •  世界がCOVID-19パニックに陥る中、欧州の航空会社はイタリアとイスラエルへの便を制限するなど、空路を規制している。国際航空運送協会によると、民間旅客機ビジネスがCOVID-19の影響により1130億ドル(約12兆5400億円)の収入減にあえぐ一方、プライベートジェット機の予約件数が急増しているそうだ。欧州の大手プライベートジェット会社Globe Air社のCEOバーナード・フラグナー氏は、「ここ3週間で予約件数が27%増加した」と語る。

     民間旅客機で飛行する際、ウイルスに感染するリスクとして700カ所のタッチポイントがあるといわれる。プライベートジェットだとタッチポイントは20カ所に減り、感染リスクは30分の1となる計算だ。それでもついにイタリア政府が4月3日までの緊急隔離体制を宣言してからというもの、GlobeAir社もイタリアへ行き来するフライトをキャンセルせざるを得なくなったほど事態は深刻だ。

     プライベートジェット機の1度のフライトに搭乗できるのは限られた人数であり、パイロットは最新の安全対策に精通しているため安心だ。もちろん、機内には除菌剤はたっぷりある。GlobeAir社のパイロットはフライトの前は必ず入念な健康チェックを受けており、イタリアを訪問したパイロットは14日間搭乗が禁じられている。

     パリからジュネーブまで、ビジネスクラスのチケット4人分の代金は約2200ユーロ(約26万2800円)だ。GlobeAir社のプライベートジェット機だと、同じ経路が1人当たり500ユーロ(約5万9000円)程高く、合計すると4200ユーロ(約50万1600円)かかる。しかし安全確保に加え、1時間45分の時間短縮が実現できるのであれば、良い買い物だと考える人も多いのかもしれない。
    GlobeAir: Coronavirus Sees Private Jet Charter Operators Register a 27% Increase in Bookings Since the Outbreak Has Spread

(タイトル部のImage:Photobank -stock.adobe.com)