東日本大震災と原発事故の被災という困難な状況下でも、笑うことが健康に良い影響を与えている可能性を示唆するデータが報告された。福島県立医科大学医学部疫学講座の江口依里氏らが地域住民を対象に、笑う頻度と生活習慣病の有病率との関連を検討した結果であり、「International Journal of Environmental Research and Public Health」に12月2日、論文が掲載された。

 東日本大震災と福島第一原発の事故は、近年の日本で最大規模の災害であり、被災者の間で心理的ストレスや生活習慣病が増えていることが報告されている。一方、健康に対する笑いの効用が最近注目されている。例えば、日常生活で笑う頻度と、心血管疾患リスクやアレルギー疾患の症状などが逆相関することが報告されている。江口氏らは、福島の被災者にも笑いの効用が認められるかを検討した。

 この研究は、東日本大震災を契機にスタートした福島県民健康調査のデータを用いて行われた。同調査の対象は、2011年3月11日~2021年4月1日に、政府によって避難地域に指定された範囲内に居住していた全住民。このうち2012年度と2013年度に実施されたアンケートに回答した30~89歳の被災者から、データ欠落のない4万1,432人(男性44.4%)の回答を解析対象とした。

 笑いの頻度は、「ほぼ毎日笑う」、「週に1~5回笑う」、「月に1~3回笑う」、「ほとんど笑わない」から選択してもらい、「ほぼ毎日笑う」とそれ以外の回答に二分し、生活習慣病の有病率との関係を検討した。生活習慣病の有無は、高血圧、糖尿病、脂質異常症、脳卒中、心臓病などについて、「診断されたことがあるか」という問の回答で判定した。また生活の場所に関する質問に、仮設住宅や避難所と回答した場合は「避難経験者」と判定した。このほかに、主観的健康感や心理的ストレス(K6やPCLSという指標で評価)や就労状況、他者との絆(助けを求めることができる肉親や友人の数)などを把握した。

 「ほぼ毎日笑う」と回答した割合は、男性23.1%、女性28.6%だった。ほぼ毎日笑う人は男性、女性ともに、笑いの頻度がそれ以下の人に比較し、生活習慣病の有病率が低く、その関係は、年齢やBMI、喫煙・飲酒・身体活動習慣、心理的ストレス、睡眠の質、就労状況、他者との絆などの影響を調整後も有意だった。

 例えば、ほぼ毎日笑う男性は、糖尿病〔オッズ比(OR)0.84(95%信頼区間0.75~0.94)〕と心臓病〔OR0.86(同0.75~1.00)〕、女性では高血圧〔OR0.89(同0.83~0.97)〕と脂質異常症〔OR0.76(同0.69~0.84)〕のオッズ比が有意に低かった。反対に男性では、がんのオッズ比上昇が認められた〔OR1.23(同1.02~1.48)〕。ただしこの点については、笑いの効用が広く認知されるようになったため、がん治療中の患者が積極的に笑うように心がけていることの現れではないかと、著者らは考察している。

 次に、避難経験の有無で分けて解析。避難経験がない群では、ほぼ毎日笑う人の有意なオッズ比の低下が認められたのは、女性の高血圧と脂質異常症のみであり、男性では有意性が認められなかった。一方、避難経験のある群では、女性の高血圧、脂質異常症に加えて、男性の高血圧、糖尿病、心臓病についても、ほぼ毎日笑う人ではオッズ比が有意に低かった。

 この結果から著者らは、「東日本大震災後の笑いの頻度は、高血圧、糖尿病、脂質異常症、心臓病の有病率の低下と関連していた。特に避難を経験した男性では強い関連性が認められた。大規模災害後などのストレスの多い状況下では、笑いが生活習慣病の予防に有効である可能性が示唆される」と結論付けている。ただし本研究には、横断研究であるために因果関係は不明なこと、生活習慣病の有無を医学的診断ではなく自記式質問票の回答により判定していること、回答率が40.7%であり十分でなく被災者全体の傾向とは言えない可能性があることなどの限界点があると述べ、「被災後の笑いの効用のエビデンス確立には、今後の縦断研究や介入研究が必要」としている。

[HealthDay News 2022年1月17日]

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